【国と地方】本間正明氏 第1話 :「三位一体とは何だったのか」

2006年6月05日

honma.jpg本間正明(大阪大学大学院経済学研究科教授・経済財政諮問会議議員)
ほんま・まさあき
profile
1967年大阪大学経済学部卒。73年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。英国ウォーリック大学客員教授、ロンドン大学STICERD客員研究員、大阪大学副学長などを経て、現在大阪大学大学院経済学研究科教授。経済財政諮問会議議員、税制調査会委員などを兼任。主著に「租税の経済理論」「新・日本型経済システム」等。

三位一体改革とは何だったのか。

 国と地方の問題というのは、財政の両輪ということで、双方が努力しなければならない重要なテーマなのですが、これまでは国と地方の対立の構図の中で議論が行われてきました。この対立の構図というのは、権限の点で中央集権型なのか地方分権型なのかという問題と、財源面で国と地方の一体どちらでお金を使ったら効率的なのか、新たな時代にふさわしいのか、こういうことが大きく問われてきたわけです。

 その背景には、ガバナンスのあり方として、国の方がまともなのか、地方の方がまともなのかという、行政レベルにおける能力の問題も絡んでいました。

 中央集権型を主張する国の論理には、受け皿としての地方というのがまだ十分ではないという視点があり、あるいは、ナショナル・ミニマムあるいはナショナル・スタンダードという点では、補助金も含めて財源を地方に移譲して任せていくという時代ではまだないという霞ヶ関の論理もあります。

 他方で地方の側は、そうはいっても、もう相当やれる能力があるのだから任せろという考えがあります。こういう時代の転換期の中における議論だったわけです。
 
 それをどう動かしていくのかというときに、こうした論点の整理の仕方から入ると、入り口のところでデッド・ロックに乗り上げてなかなか前に進まない。そのことをブレイク・スルーするために、三位一体の改革、すなわち、全体として、税源移譲の問題と補助金の問題と交付税の問題の三点セットで解決しなければならない、特に財源問題という点でいえば、これを三点で同時にやらなければいけないということでスタートしたわけです。

 地方が主張する税源移譲の問題は、特に実務レベルでの国と地方の関係の中で、パワーバランスの問題も含めて最も難しい問題でした。これを、補助金を削減しながら、税源移譲に結び付けていこうということで議論が始めることができたわけです。

 その場合、補助金も単独で移し替えるというのはとてもできないということで、霞が関の地方に対するお金と権限、あるいは官官規制といわれるものを、どういう形でセットにして動かすのかというのが、三位一体の改革だったわけです。これは、金額的にも大変な紆余曲折がありました。

 私は、経済財政諮問会議の中では民間議員として、6兆円の補助金を削減しろと主張しましたが、それを基点にしながら、税源に移し変えるときには、実務量や金額を75%~80%程度に、すなわち、20%~30%程度を効率化をして、お金の面でももともとの補助金よりも数段少なくするような形で、同時に行政の効率化を進めるべきだということでやったわけです。

 6兆円という規模が大きかったということもありますが、最終的には総理の決断で4兆円の補助金削減、3兆円の税源移譲をするということになりました。非常に難しい改革でしたが、少なくとも形の上では、このような形で第1ステージの三位一体改革というものが終わったわけです。
 
 これに対しては、地方の側も国の側も不満が残りました。特に金額の大きかった義務教育の問題では、地方の側は自主財源化をしろという形で自由度の確保、教育の自治というものを主張されたわけですが、この点に関しては、文部科学省は、規格化された教育のやり方については、これは国が関与すべきだという立場を崩さず、国庫補助率2分の1を3分の1に減らすという形でつじつまを合わせたという形になったわけです。

 このやり方は、要するに、お金は減らすが、いわゆる国と地方との官官規制という点でいえば、権限はやはり国に残る形になりました。それでは地方の自由度は増していない、自由度を与えて税源移譲を完璧に行った場合に比べて、中身がコントロールされているから、決して弾力的な執行も可能になっていない。だから、これは不十分だという評価が起こっているのだろうと思います。
 
 ですから、規模の問題と質の問題について、双方が不満を持っているわけですが、特に地方の側からは、自分たちが期待していただけの税源移譲にはなっていないという問題と、実質的には何も変わっていないという批判が出ているのは事実だろうと思います。

 そういう三位一体改革の現状からして、次のステップはどうするのか、それが今、問われているわけです。


※第2話は6/7(水)に掲載します。

国と地方の問題というのは、財政の両輪ということで、双方が努力しなければならない重要なテーマなのですが、これまでは国と地方の対立の構図の中で議論が行われてきました。この対立の構図というのは、権限の点で中央集権型なのか地方分権型なのかという問題と、財源面で...