【座談会】地方の自立を阻害するグランドデザインなき道路改革

2003年1月04日

masuda_h040729.jpg増田寛也 (岩手県知事)
ますだ・ひろや

1951年生まれ。77年東京大学法学部卒業後、建設省入省。千葉県警察本部交通部交通指導課長、茨城県企画部交通産業立地課長、建設省河川局河川総務課企画官、同省建設経済局建設業課紛争調整官等を経て、95年全国最年少の知事として現職に就く。「公共事業評価制度」の導入や、市町村への「権限、財源、人」の一括移譲による「市町村中心の行政」の推進、北東北三県の連携事業を進めての「地方の自立」、「がんばらない宣言」など、新しい視点に立った地方行政を提唱。

kitagawa_m040616.jpg北川正恭 (三重県知事)
きたがわ・まさやす

1944年生まれ。67年早稲田大学第一商学部卒業。三重県議会議員を経て、83年衆議院議員初当選。90年に文部政務次官を務める。95年より三重県知事。ゼロベースで事業を評価し改善を進める「事務事業評価システム」の導入や、2010年を目標とする総合計画「三重のくにづくり宣言」の策定・推進など、「生活者起点」をキーコンセプト、「情報公開」をキーワードとして積極的に県政改革を推進している。

kimura_y020906.jpg木村良樹 (和歌山県知事)
きむら・よしき

1952年生まれ。74年京都大学法学部卒業後、自治省入省。和歌山県総務部長、自治省財政局指導課長、大阪府副知事等を経て、2002年現職。森林整備による環境保全と雇用維持を目的とした「緑の雇用事業」を提唱。Iターン者が100人を超す等、過疎地の活性化に大きな成果を挙げている。さらに「地球温暖化防止に貢献する森林県連合」の結成や「地方の実情にあった公共事業」の推進等、和歌山モデルを積極的に全国に発信し、地方からの構造改革を推進している。

katayama_y020906.jpg片山善博 (鳥取県知事)
かたやま・よしひろ

1951年生まれ。74年東京大学法学部卒業後、自治省に入省。自治大臣秘書官、自治省国際交流企画官、自治省府県税課長、鳥取県総務部長などを経て、 99年現職。2000年10月の鳥取県西部地震では、全壊した建物を建て替える家庭に一律300万円を補助する制度を、国の反対を押し切って設けた。住民に対する情報公開や透明性の確保、現場主義を徹底し、「ズレのない県政」の実現に取り組んでいる。

hayashi_yo020906.jpg林良嗣 (名古屋大学大学院教授)
はやし・よしつぐ

1951年生まれ。74年東京大学法学部卒業後、自治省に入省。自治大臣秘書官、自治省国際交流企画官、自治省府県税課長、鳥取県総務部長などを経て、 99年現職。2000年10月の鳥取県西部地震では、全壊した建物を建て替える家庭に一律300万円を補助する制度を、国の反対を押し切って設けた。住民に対する情報公開や透明性の確保、現場主義を徹底し、「ズレのない県政」の実現に取り組んでいる。

概要

小泉首相が発足させた道路関係4公団民営化推進委員会の議論は、最終報告に向け白熱しているかに見える。しかし、その議論の観点は、道路公団の組織改革のほかに、高速道の採算性や進捗率という経済的効率しかみていない部分的なものであり、現実的なヴィジョンに対する焦点のズレを感じずにはいられない。4知事と林教授を迎えて、将来設計を踏まえた大きな視点と、今後の議論のあり方を議論してもらった。

要約

小泉首相が発足させた道路関係4公団民営化推進委員会の議論では、民営化議論とは名ばかりに公団の組織改革の議論となり、道路建設の取り扱いをめぐって委員会は最後まで紛糾した。一方、自民党の道路族議員は「計画通り整備するのが国の責任」として真っ向から対立、テレビをはじめとするマスコミは「小泉改革 VS 抵抗勢力」の構図で頻繁に取り上げて、民営化推進委の最終報告に向け道路問題をめぐる議論は白熱しているかに見える。

しかし今、道路公団の組織改革のほかに焦点を当てられているのは高速道の採算性や進捗率という経済的効率の観点にすぎず、「公団が手がけている高速道路には、他の事業に比して優先度合いの極めて高いところがあるのに、狭い視点による議論で切り捨てられようとしている」(片山)といった懸念がある。高速道路を国の「骨格」、一番大事な公共財であるととらえるならば、その整備は「国土全体のグランドデザインをにらんで取り組むべき」(増田)ものであって、「本来は建設国債によって世代間に負担を分けながらやっていくべき」(木村)ものである。地域を良くしていこうと考えている知事であればあるほど、今の議論は隔靴掻痒、どこか焦点がずれているように見えるのだ。

「高速道路建設を待ち続けた地域に対して、非難が起きたり費用負担を課したりするのは不公正」(片山)との視点も議論は見落としている。地域の現実の対応をしていない民営化推進委には政治の公正という視点に頓着がなく、本来なら国家構造の中における高速道路の必要性と体系を考えるべき政府には健全なリーダーシップがない。

むろん地方の側に決して問題がないわけではない。「地域に『通路』をつくるとき、そこに『核』があるか」(林)が重要であり、脆弱な地域政策をどう変えていくか、これは今後の地方の課題だ。地方はその権限と責任を明確にして、中央から自立していかなくてはならないが、そのためにも「道路問題の議論を地方分権のあり方、この国の構想力という視点にまで大きく発展させていく」(北川)ことを重要視すべきである。


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 小泉首相が発足させた道路関係4公団民営化推進委員会の議論は、最終報告に向け白熱しているかに見える。しかし、その議論の観点は、道路公団の組織改革のほかに、高速道の採算性や進捗率という経済的効率しかみていない部分的なものであり、現実的なヴィジョンに対する