「新政権の課題」評価会議・現役官僚が見た安倍政権/第3回:「参院選に向けて曖昧にされた内政面での改革路線」

2006年12月06日

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言論NPOは、今年9月に誕生した安倍政権に対する評価を、各界の有識者の方々の参加を得て進めています。今回は、中央官庁の幹部クラスの皆さんに座談会に参加してもらう形で議論に加わっていただきました。

参院選に向けて曖昧にされた内政面での改革路線

工藤 安倍政権の政策の中身に入りたいのですが、まず、内政面からいくと、安倍さんは何をしたいのでしょうか。参院選までとその後は違うのかもしれませんが。

C  基本は経済成長でしょう。成長戦略と言っているわけですから。

  安倍さんがやりたいことは、今年の「骨太の方針」そのものではないですか。官房長官のときに自分が中心になってまとめたという意識は相当強いと思います。あの路線は基本的に踏襲する。あの中に再チャレンジも全部、安倍イズムは入っているわけです。

工藤 入っていますね。成長戦略は経済産業省がまとめたものでしょう。

  当時の中川政調会長が安倍政権のために用意したというプログラムです。

B  大半はそういうことだと思いますが、骨太では、やはり当時の与謝野担当大臣と柳沢自民党税調会長がプルーデントな前提の下で財政健全化を考えていかなければならないとした考え方は厳然とあるわけです。増税についてある程度柔軟な書き方をしていますが、それも必要だと言っているわけですね。その点になってくると、安倍政権は相当なニュアンスの違いがあると思います。先日の諮問会議でのやりとりでも、そこは随分違います。

成長戦略というのは、方向として誰も否定できないものです。否定する人はいないでしょう。従って、それは哲学でも何でもないということです。成長なくして日本の未来なしというのは当たり前の話で、こんなことをあまり言っていてもしようがないわけです。「改革なくして成長なし」というのは、これはテーゼです。要するに、従来の景気対策、財政出動によってではなく、改革によって成長しましょうという意味では、哲学を表していた。「成長なくして日本の未来なし」はそうではない。

C  「消費税に逃げず、逃げ込まず」というのも、何も言っていない。

B  申し訳ないが、今のところ、哲学、方針と呼べるものはあまりないですね。もう1つ、少し気になっているのは、成長戦略ということで、中川幹事長以下、党でも政府サイドも、そういう声は多いのですが、今、日本の経済で、政府が旗を振ったところで、成長率は一体何%になるのでしょうか。例えば、法人税の減税ぐらいまで本当にできれば2%の成長率がもう少しは上がるかもしれません。しかし、今議論されているようなレベルでは、経産省が色々と工夫して厚化粧しても、0.1%動くかどうかでしょう。名目成長率でデフレから脱却できるかどうかというのは大きいですし、日銀にもそこまでは頑張ってもらわなければいけませんが、実質成長率を上げられるかどうかというのは、やはり国民がどれだけ頑張るか、例えばフリーターが仕事をするようにしよう、お年寄りも働こう、そういう話ですし、政府が鐘や太鼓を叩いてもイノベーションできるわけではないわけです。政府の政策努力でこうしましょうというところに、それほどマヌーバーの余地がない。

むしろ、政府というのは、経済や財政で言えば、深刻な事態に陥ったときに何とかするようにする。これが政府の一番大事な役割で、うまくいったときは別に言わなくてもいい。プルーデントな前提というのはそういうことなのです。

工藤 安倍さんは経済成長率を何%にしようとしているのですか。そして、その手段は何を考えているのですか。

B  成長戦略は実質成長率で2.2%以上を視野に入れるとしています。名目成長率は言及していませんが、名目3%という想定はあると思います。それは、歳入歳出一体改革のプルーデントな前提としてそうなっているわけですが、総理は、そうした目標よりもさらに高い成長を達成したいと考えているようです。その手段は、骨太の方針では7~8ページぐらいにわたって色々書かれていますが、結局、読後感が余り残らない。

工藤 とにかく成長したいということで、消費税の税率アップとか増税については、その幅を小さくしていくということですか。

C  そういうことです。財政再建は自然増収でやるべきだという考えです。

工藤 2~3%の成長率を前提にして税収弾性値を掛ければ、自然増収で果たしてどこまでできるのかは見えてくるはずでしょう。

C  だから、一方で骨太の方針に出ている歳出カットを十何兆円もやるということとセットになっていて、それに自然増収が加われば、両方合わせてプライマリーバランスの達成は増税をしなくてもできるという考え方になるのでしょう。

工藤 骨太の方針の際には、財政再建の1期目にはプライマリーバランスの目標を達成し、その後は政府債務残高の対GD P比を引き下げていくという目標設定があったはずです。それをどうするのかという議論は今、あるのでしょうか。

B  今はとてもそこまでは議論されていない。要するに、参議院選挙まで鳴かず飛ばず路線で行って、選挙が終わったら突然、大変身して、増税やるぞ、歳出カットやるぞと言うのか。今のところ、総理の所信表明演説では、税制改革については、社会保障とか少子化対策ということで必要になってくる分について税も考えなければならないという言い方になっています。国会答弁では、来年の秋以降でなければ抜本的税制改革は議論できないという言い方になっている。社会保障改革では、例えば年金定期便の導入、医療については健康フロンティア戦略の推進など、要するに痛みがないものばかりを打ち出している。

このやり方については、参議院選挙に向けて民主党が、増税隠しではないか、医療も給付の抑制をねらっているのではないかと、色々と批判をし始めるわけです。そうなってくると、参議院選挙に向けて、キジも鳴かずば撃たれまいということで、じーっと潜んでいるという路線で今後も与党が行くかどうかということだと思います。
今、安全保障について、野党がなかなか攻め切れない状況です。国際情勢などが緊迫すればするほど政府に主導権をとられて、野党は余り何も言えなくなる。そうなると、経済面で批判をし出す。今の路線で本当に参議院選挙までもつのか、正直、私たちは疑問に思っています。

  内政の基本は、骨太の方針に示された成長戦略と歳出歳入一体改革という太い柱ができています。社会保障もとりあえず2200億削ればいい。歳出歳入一体改革では初年度2200億、シーリングでも2200億となっています。

次に批判が来るとすれば、例えば地域経済でしょう。選挙向けにはそういうところだと思います。当面、1回目の予算編成、来年の通常国会での予算委員会までは、今年の6月の骨太の方針を踏襲しながら、少しずつ新しい手を打っていくのではないでしょうか。

B  ただ、総理が今考えていることは、骨太から結構離れていると思う。例えば、「頑張る地方応援プログラム」などは、これまでの改革とは正反対です。交付税を国の裁量で補助金的に扱うのはもってのほかだ、箱物行政などにも交付税を補助裏として配っていたのですが、そういうことやめようということで、この5年間必死で努力しているわけです。頑張る地方応援プログラムは骨太の方針にも少し入っていて、それは竹中さんが言っていたからですが、安倍さんがそれを公約にされたので、がっかりしました。

  「再チャレンジ」関係について言えば、今お話に出たのは地域の再チャレンジということで、頑張る地域を応援するということですが、地域間格差を縮める手法として、とにかく劣位に置かれた地域に対して再チャレンジプログラムをつくるということになる。しかし、これは安倍官房長官時代に内閣官房で仕切った整理によると、地域の再チャレンジという概念を持ち込めば、公共事業の増額につながってしまう。歳出歳入一体改革で公共事業を抑制しようと言っているのに、それはまずいだろうということで、人の再チャレンジまでで線を引いています。今度、再チャレンジ担当大臣の下で、地域も再チャレンジということが提唱され、頑張る地域を応援しようというドグマとくっつけば、あとは選挙です。今の路線というのは、そちらに行く、ばら撒きになってしまう可能性がある。

そうなると、私が先ほど申し上げた経済関係の危機管理という路線からは離れてしまうのです。これから、経済成長を支える色々な前提が国際的に狂ってくる可能性が相当ある。それでも成長を力強く続けるんだというのでは、甘やかすことになる。甘やかしてはいけない、そこで耐えるという前提で考えるのがポイントだったのに、甘やかした上で環境が厳しくなりましたということになると、どかんと来ますね。

B  今度の19年度予算は、一体どういう観点から評価してもらうのだろうか。地域再生ということなのか。地域の格差というものは是正の対象ではなく、引っ越せばいいではないか、足による投票をすればいい、というのが普通の経済学者の答えですが、それは置いておいて、来年度予算では地域格差の問題にも配慮したというところを、安倍政権としては評価してもらうのか。それとも、骨太の方針で歳出歳入一体改革を打ち出し、その初年度として、これだけ厳しく、例えば公共事業についてマイナス3%、4%まで行きましたというところを評価するのか、どちらなのかという話になる。できれば骨太の方針の延長線上できちんとやっていただければと思います。

工藤 予算について、今までそのようなことは経済財政諮問会議で考えていたのですか。

B  総理自身が官邸の中で、例えば国交大臣を呼んで、もっと削らんかといって恫喝する。そういうことでやっていた。小泉さんは、何だかんだと言っても、個人としてのピクチャーは鮮明だったのです。

C  財政については小泉さんは物すごく鮮明でしたから、諮問会議の民間議員の人たちも、そういう頭でやっておられた。しかし、今は少しそこがぼやけています。今回、諮問会議には八代さんや丹羽さんが入られましたが、丹羽さんは減税ばかりの人ですし、総理の意向が何となくぼんやりしていると、厳しい方向に行くかどうか確かに疑問ですね。

  小泉さんの前半は、例えば「改革なくして成長なし」など、結構批判されていました。そこをぐっとこらえて、まさに成果を上げた。成果もいい加減なものだと言われていましたが、それを叩かれても同じ道をずっと行き続けた。その5年間の成果というものは金字塔だと思います。やはり、やればできるということだったのです。

B  財政出動なしで、何があっても我慢するということで、ここまで来た。民間がある意味、あきらめてくれるところまでやったわけです。政府に頼ってもしようがない、自立的にやるしかない、そこまで行った。ただ、株価が7千何百円になった頃のように、底を抜ける危険性がなかったかというと、あり得たわけです。しかし、色々とハッピーなこともあって、ツキもあったのですが、小泉さんに頼っていてもしようがないとあきらめさせるところまでやったので、うまくいったという要素は十分評価すべきだと思います。

 言論NPOは、今年9月に誕生した安倍政権に対する評価を、各界の有識者の方々の参加を得て進めています。今回は、中央官庁の幹部クラスの皆さんに座談会に参加してもらう形で議論に加わっていただきました。