世界の課題に挑む

深刻化する米中対立の行方と日本の立ち位置

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2019年2月28日(木)
出演者:
宮本雄二(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)
五百籏頭真(兵庫県立大学理事長、ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長)
藤崎一郎(日米協会会長、元駐米大使)
山﨑達雄(前財務官)
西正典(元防衛事務次官)
三浦祐介(みずほ総合研究所主任研究員)
司会者:工藤泰志(言論NPO代表)

 言論NPOの「東京会議2019」(3月3日・ホテルオークラ)に先立つプレフォーラム第3弾「深刻化する米中対立の行方と日本の立ち位置」は28日、都内の事務所で開催され、元駐中国大使・宮本雄二、兵庫県立大学理事長・五百籏頭真、元駐米大使・藤崎一郎、前財務官・山﨑達雄、元防衛事務次官・西正典、みずほ総合研究所主任研究員・三浦祐介の6氏が議論に参加しました。

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kudo.png 司会の言論NPO代表・工藤泰志は、これまで2回にわたって、「世界のリベラル秩序の今後」や、「多国間主義による国際協力の現状」を評価してきたが、最後の3回目は、私たちが今、最も関心がある「米中対立とそれに対する日本の立ち位置について議論したい」と挨拶。

 今年初めから、ワシントンなどを訪問し、米国の議員や通商、安全保障の専門家、議会の関係者66氏と話し合ってきた工藤は、「米国が中国に対して厳しい姿勢に転じたのは、貿易摩擦に関心があるトランプ大統領の姿勢だけではなく、共和党や民主党を含む議会全体や産業界に中国に対する厳しい雰囲気があり、多くの人が中国をルールベースの秩序に取り組むことは今後も難しいと考えている」と米国の印象を語りました。米中間の問題がデジタル技術の展開を通じて安全保障の問題に繋がり始めていることにも大きな懸念がある中、「この米中対立の本質をどのように見ているのか」と各ゲストに見解を求めました。


米中対立の本質とは何か

miyamoto.jpg 外交官として中国と長く付き合ってきた宮本氏は、「戦後、米国は覇権国として70数年やってきて、それに初めて実力で迫りうる国が現れた。基本的には米国の自然な反応である」と語りました。さらに、米中間にはハイテクなど技術を巡る厳しい争いが存在しており、技術面で軍事、安全保障も含めて中国に後れを取った場合には、米国は負けてしまう、という天王山にいる。「そのため、新しい覇権国である中国に対して、米国は挑戦を受け入れて中国を抑えこみにかかっているのが現状ではないか」と分析しました。一方で宮本氏は、「中国は米国に追いつきたいと思っているが、どこまで本気で、覇権国になる考えでいるかどうかはわからない」と語りました。

iokibe.jpg 五百籏頭氏は、「トランプ大統領のレベルでは、ディールがうまくいって、中国が米国のものを一杯、買ってくれたらよし、とする経済利益のやりとりで妥協できる。しかし、米国にとっては戦前のドイツ、戦後のソ連に対峙したよりも中国は厳しい挑戦者」との見方を示しました。さらに五百籏頭氏は、米国にはもう、中国を抑えきれないのでは、という声がある一方、自由民主主義を無にするのはやはり許せず、総がかりの姿勢を示している。対して中国は、21世紀の半ばには、米国に負けない強国になる夢を抱きながら、中国ができること、できないことを世界の中で軌道修正しながら行き来している、との認識を示しました。


米国は新政権ができれば、リセットもありうる?

fujisaki.jpg 米中対立の行方について、「貿易問題では今後、中国が相当、譲歩することで決着できるだろうが、先端技術の対立は残る」と話すのは藤崎氏です。また、鄧小平の「韜光養晦」が、習近平になって包括的国家産業政策「中国製造2025」を承認するなど、態度が大きくなってきていることについては、米国は2020年の大統領選挙前で、対中で優しい姿勢を見せるのは致命的だが、「大統領選で新しい政権ができると、リセットの動きもありうると米国側の姿勢が今後も一貫して中国と対立するということが大きい」という見方には疑問を呈しました。

yamazaki.jpg 山﨑氏は、米国の中国への意識は、「1972年に、中国はWTOに入ったが結局、裏切られた」と語ります。そして、昨年10月に、ペンス副大統領が、米国は関税、通貨操作、知的財産権侵害での黒幕は中国の政府機関だと演説したことも米中対立の本質を突いている、と指摘します。ただし、「こうしたことはトランプ政権全体で共有されているわけではない」と山﨑氏。「昨年暮れから今年初めのマーケットの動揺を見ると、大統領選を控えるトランプ大統領やマクロ経済担当のムニューシン財務長官には、そこそこのところで手打ちした方がいいのではという考えもある。そこは注意して見ていきたい」と話します。


中国はその世界観を変えるつもりはなく、どの時点で落ち着くか先が読めない

nishi.jpg 防衛関係者として中国を見てきた西氏は、「中国が長い間、育んできた中華という世界観は、17世紀以来、西欧が中心となって築いてきた国際法秩序と全く相容れない。西側は、いつか中国が西欧諸国に寄ってくるだろうと思いエンゲージメントと言ってきたが、中国は欧米社会が築いた国際秩序に対してフリーライドを繰り返して、自分の方は譲る気がない。そこのところに気付いた結果、米中の正面きってのぶつかり合いになった」と米中対立の背景を解説しました。さらに西氏は、「問題は米国が妥協をしようにも、中国は自らのプリンシパルを変える気がなければ同じこと。さらに悪化したシチュエーションをもたらすところに行ってしまう。しかし、中国はそのプリンシパル、世界観を変える気はないと思う。落ち着く先は、どこまで行くのか、正直わからない」と、西氏でさえ、米中間の今後については、先が読めない状況との認識を示しました。

miura.jpg 一方、シンクタンクで中国経済を担当する三浦氏は、「中国が台頭してきた背景には、グローバル化があり、その世界を無視することができない」と語ると同時に、サプライチェーン、製造業の発展が安全保障にもつながるため、さらに複雑になって、技術移転、知的財産権、国家の補助金など中国の体制に関わる問題があり、非常に根深い問題だ、と話しました。


今後の行方はどうなる  ――中国の世界観の限界

 各氏が米中対立の本質をそれぞれ指摘する中、工藤は米中対立の今後の展開を厳しく問い直しました。「現状は中国がどう変わるかにボールが移っているが、皆さんは妥協が成立すると見ているのか、世界は分裂するしかないのか。貿易摩擦の影響が昨年末から出ているが、対立が激しくなると世界の経済システムのリスクに繋がりかねない」と、各パネリストに問い掛けました。

 「中国が今の体制を変えることはない」と言うのは三浦氏。「知的財産権でも、中国はできる範囲で努力はしている。中国が発展する権利を放棄することはないので、米国の危機感は募り、問題は長期化するしかない」だろうとの見解を示しました。一方で、「中国が体制を変える気がなくても、中国共産党のトップを年配者が占める中で、若い人たちとは、世界に対する価値観が通じ合える印象がある。長い目で見れば、そういう人々が政府を担う段階になった時に、体制のことを考え直してみる可能性はある」との希望を示すものの、現段階では判断はつかないと語りました。

 「どこに行くのか、どう落ち着くのか全く想像がつかない」と言うのは西氏です。「中国が培ってきた社会観、世界観と言えるのは、東アジアにおける中国の支配的な世界観であって、西欧を含めたグローバルなイメージまで発展するのは無理、そこに中国の世界観の限界が出てくる。そこをどう乗り越えるか、若い人たちが突破するものを見つけるのか、見つけられなければ混迷の時代に入るのか、わからない」と西氏は、これまで中国人と接触してきた感触から語ります。


国家のてこ入れはアンフェア

 山﨑氏は、「中国は国家主導で国有企業を中心に産業を発展させてきたが、途上国ではやむを得ないとしても、世界のトップクラスの経済レベルで、補助金など国家のてこ入れによる経済の育成をやると、自由な資本ルールで動いている時にフェアではない。ここが問題の本質であり、追及すべき問題で、安全保障は別の次元のもの」と答えます。

 西氏と同様に、「中国のイデオロギー、世界観がまだわからない」と首をひねるのは宮本氏です。「欧米は中国とのイデオロギーの対立と言うが、果たしてその前提は正しいのか」と指摘した上で、仮に、中国に世界観があって、世界中に広げようとして、ついてくる国があるのか、と疑問を投げかけます。さらに、「中国の国内をそのまま国際社会に置き換えて、誰がついてくるのか。全ての国が反対し、中国が国内でやっている普遍的なものはゼロになる可能性がある」と語り、中国を人一倍知る宮本氏からも中国の世界観は見通せないとの見解が語られました。

 もっとも宮本氏は、中国の変化の可能性についても言及。「共産党の一党指導体制でなければ中国のシステムは動かせないからこれまでそうしてきたが、米中衝突によって『この仕組みはおかしいのではないか』という声は中国内部からも出てきている」と内からの変革の可能性を指摘。また、米国側の視点として「ペンス演説でも、『改革開放の精神に戻り、自由や政治的権利を尊重するようになれば米国も中国を歓迎する』と言っている。共産党の統治そのものを否定しているわけではない」とし、中国が西側世界に入るためのドアは常に開かれていると語りました。

 これらの議論を受け、工藤は最後に、日本がとるべき立ち位置について、各氏の見解を問いました。

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今、日本は何をすべきなのか

 三浦氏は、既存のルールに歪みがあるのも事実であるため、それを修正するための議論に中国を引き込むべきと主張。中国も既存のルール全てに反対しているわけではないため、歩み寄りの余地はあるとし、日本は中国を議論に招き入れるための努力をすべきと語りました。

 山﨑氏も、米国がマルチでのルールづくりに背を向ける現状では、日本が音頭を取ってルールづくりを主導すべきと主張。そこでは「バイの交渉で米国に攻め続けられるよりはマルチの枠組みに入った方が得だ」と中国に思わせることがポイントになるとし、それができれば中国は自然と国際協調的になってくるだろう、と語りました。

 こうした議論を受けて西氏は、「問題は中国がルールづくりに乗って来ない場合のサンクションをどうするか」と問題提起。続けて、IMFが2016年に人民元を特別引出権バスケットに採用したことを振り返り、これを「西側の中国に対しておべっかを使ったものであり、異様なこと」などと断じ、こうした甘い対応をもうするべきではないと主張。それと同時に、「(甘い対応を)しなかったら中国はどうするのか。それはまだ未知数であり、一つずつ試していくしかない」とし、日本にとっても手探りの状況は続くとの認識を示しました。

 一方藤崎氏は、中国に国際ルールを遵守するように求めたとしても、その先導者だった米国自身がルールを軽視している現状では説得力に欠ける、と述べると同時に、米国がそういう状態の中ではルールの抜本的な見直しは難しいと指摘。したがって日本としてもルールが揺らいでいるからといって焦って着手するのではなく、「時間をかけて取り組むべき」と注意を促しました。

 五百籏頭氏は政治外交史の観点から提言しました。米中対立が米中戦争に発展するという事態は言うまでもなく日本にとって最悪の状況であるとした上で、かつて第2次世界大戦後の世界秩序を構想する上でイギリスが果たした役割を紹介。すでに昔日の大英帝国の面影はない「斜陽のイギリス」であったものの、米ソ間の調整役として重要な役割を果たしたと回顧し、現在の日本も米中の間に入って当時のイギリスと同様の役割を果たし得ると主張。安倍政権の安定性は世界では高く評価されているとした上で、これを強みとして積極的に調整役として乗り出していくべきだ、と提言しました。

 宮本氏は、経済構造の抜本的な改革なくして中国の明るい将来はない、との見方は多くのエコノミストの衆目の一致するところであり、WTOをはじめとする国際機関が中国に求める改革案もそうした問題意識に基づいていると指摘。同時に、中国国内にもこうした見方に共鳴する人は多いことを改めて紹介しつつ、「それが中国を内側から転換する力になり得る」と期待を寄せました。
さらに宮本氏は、西氏と同様の視点からこれまでの中国へのエンゲージ戦略が失敗したのは「飴だけのエンゲージ」だったからと分析しつつ、今は「トランプ氏による鞭も入った」状態であり、新たなエンゲージによる局面打開の好機であると主張。そこでの日本が果たすべき役割としては、米国に鞭を振るわせながら、中国をあるべき方向に誘導していくことである、と語りました。

 議論を受けて最後に工藤は、現在の状況はリベラル秩序を新しいバージョンにアップデートさせるための好機であるとの認識を示しつつ、そのための流れを3月3日の「東京会議2019」からつくり出したいと意気込みを語り、3回にわたるプレフォーラムを締めくくりました。


「東京会議2019」は3月3日開催


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 言論NPOは、現在深刻化する米中対立の行方とリベラルな国際秩序の今後を議論するため、G7加盟国の米国、日本、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダとブラジル、インド、シンガポールの10カ国から世界を代表する有力シンクタンクの代表者を迎え、「東京会議2019」を3月3日に開催します。

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