言論スタジオ

当事者意識と2014年の日本に問われていること

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2014年1月17日(金)
出演者:
明石康氏(国際文化会館理事長、元国連事務次長)
宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)
武藤敏郎氏(株式会社大和総研理事長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


議論で使用したアンケート結果はこちらでご覧いただけます。

極めて重要な2014年

工藤泰志工藤:言論NPO代表の工藤泰志です。さて、私たちは新年、「当事者性」の重要性について提案しました。というのも、社会で起こっている色々な課題に対して、他人事ではなく、自分自身の問題として考えていく。そういうエネルギーがこの社会の中に広がった時に、本当の意味で「日本の変化」が始まるのではないか、と考えたからです。私たちも、大きな変化の基盤を作るために、色々な形でチャレンジしていきたいと思っています。

 ということで、今日は、2014年の議論作りをするにあたって、まず、この年をどう考えていけばいいのか、ということについて、言論NPOのアドバイザリーボードの皆さんに集まっていただいて議論をしていきます。

 それではゲストのご紹介です。まず、国際文化会館理事長の明石康さん、大和総研理事長の武藤敏郎さん、元中国大使で、宮本アジア研究所代表の宮本雄二さんです。皆さんよろしくお願いいたします。

 さて、今回の議論に先立ち、私たち言論NPOに登録している有識者の皆さんに対してアンケートを行いました。まず、一つ目の質問で、「2014年、あなたは日本にとってどのような年になると思いますか」ということを尋ねたところ、7割近くの方が、「決定的とまではいわないが、日本の将来に影響を与える重要な1年になると思う」(68.9%)、と回答しました。この1年は、非常に重要な年であるということを多くの人が感じているということですが、皆さんは、今年、どんな年になると思いますか。

明石康氏明石:この有識者の回答傾向は私も賛成できるものだと思っています。アベノミクスが始まり、少なくともその第一段階、第二段階においては成果を収めつつあります。そして、第三段階に入り、経済の活性化が本当にできるか否かの要のところにきており、国内経済に元気が出てきたことは国民みんなが喜んでいると思います。

 その反面、日本のアジアにおける立場、あるいは日本に対する評価やイメージについて、日本は国際的に孤立しているのではないか、という憂慮と心配が、色々なところから聞こえてきます。日中関係、日韓関係が非常に悪いことはいうまでもありませんが、日本の一番重要な同盟国であるアメリカ国内においてさえ、今回の安倍総理の靖国参拝について失望の念を漏らされる、という事態になってきています。我が国と我が国を囲む色々な国との関係について、我々は注意深く、じっくりと取り組むことも大事なことですけれど、もう少し理解を得られやすい動き方にする必要がある、と感じています。

武藤敏郎氏武藤:このアンケートの結果には同感です。我が国は今から4年前になりますが、政権交代が起こりました。あの時、国民は「これから日本に色々な変化が起こるのではないか」と期待しました。ところが、結果的には残念な結果となりました。そして、2012年末の選挙で、国民は新たな期待を持ち、その結果、政権交代が行われました。だからこそ、安倍政権は昨年1年間、国内問題に注力したと思います。その結果、アベノミクスが全体的には成功しているという評価の中で、今年は、実体経済が本当に改善するのかどうか、という意味で正念場だ、という経済面からの判断がこの回答結果の背景にあると思います。もう一つ、東アジアにおける日本の立場というものが、中国、韓国だけではなく、欧米からも必ずしも理解されないような状況にある、ということを見つめ直し、立て直す必要があると多くの有識者が思っているのではないでしょうか。


100年前と似ている現在

宮本雄二氏宮本:最近、明治の終わりから昭和初期にかけての歴史の本を読んでいるので、その影響を受けているのですが、実は今年は1914年に第一次世界大戦が始まってから100年という節目の年です。あの時代は、政治も外交も経済も日本を含めた世界全体が大きな変貌を遂げ、社会の仕組みと考え方が合わずに第一次世界大戦が勃発してしまった、という気がしてなりません。現在の日本を振りかえると、状況が100年前にあまりにも似ているのでびっくりした、というのが正直なところです。すなわち、政治制度や、政党政治は民主主義の基本ですから、どういうかたちが一番いいのか、ということについてこれまで言論NPOでは議論をしてきましたよね。我々もまだきちんとした答えを出せていませんが、これは100年前も同じ状況だったのです。

 一方、経済の点から見ると、1929年に大恐慌が起こり、世界が奈落の底に突き落とされましたが、現在も決して万全ではない。外交では、中国が軍閥でバラバラだったのが、ひとつにまとまった。中国問題を正面から突き付けられた日本は上手く対応できずに、戦争に入っていったように、戦前でも外交問題の中心は中国問題だったのです。中国問題に対する対応を誤った結果、アメリカとの最後の戦争になったという側面が大きい。ですから、中国問題を上手く解決していくというのは、これから10年くらいの日本の命運を決めるような重要問題だな、と実感しています。

工藤: 1915年は対華21カ条要求ですね。

宮本:この対華21カ条要求によって、間違いなく日本は中国から侵略者と見られるようになってしまいました。つまり、それまでの中国における対外排除の対象の中心はイギリスなどでしたが、それが日本に移ったという節目になりました。

工藤:明石さんも新年に言論NPOのウェブサイトに寄せてくださったコメントの中で「今年は『祈る平和』から『創る平和』への転換点の年なので、そういうことを考えるべきだ」という主張をされていました。今年が第一次世界大戦100周年ということを踏まえて、改めてどう思われますか。

明石:第一次世界大戦と第二次世界大戦時の日本の役割を比べると、第一次世界大戦の時はいわば傍観者的な存在だったわけですが、他の大国がヨーロッパの方に集中した時に、日本はある意味で漁夫の利を得て、アジアでドイツが持っていた色々な権益を取ってしまった。また、直接取らないまでも、この第一次世界大戦の後のベルサイユ会議で、そういう利権を国際的に承認されるかたちになりました。しかし、その反面、宮本さんが指摘したように、対華21カ条要求を突き付けるなど、アジアにおいて暴れ者的な存在になっていくことが始まりました。

 確かに、1914年と2014年の現在を比べると、国際関係における新興勢力と既成勢力の間の争いみたいなものが起きつつあるという点で、ロンドン「エコノミスト」が非常に似ていると指摘しています。つまり、1914年においては新興勢力であるドイツと、イギリス、フランス、ロシアその他をめぐる争いがありました。ボスニアの首都であるサラエボでオーストリアの皇太子が暗殺された事件が両勢力の対立の火花となったわけです。「エコノミスト」に言わせると、今度は「尖閣が21世紀の火花のもとに」なるかもしれない、というわけです。アジアにおいては19世紀半ばまで中国が一番大きな勢力でした。ところが19世紀半ばから現在まで日本が中国に代わって一番大きな勢力になった。これからの世界は、中国と日本の力が拮抗し、ある意味では中国が日本をしのぐ存在になっていく。そういう意味では、中国は新興勢力の代表的存在です。日本はそれに対して、既成勢力の代表みたいな形で対抗する。とすれば、21世紀における火花は、ヨーロッパではなく東アジアで打ち上がるに違いない。ということで、日本と中国の行動、一挙手一投足に世界の目が向けられているのです。だから、日中関係は日中2ヵ国だけの問題ではなくて、アジア全体、さらには、第二次世界大戦後の世界において中心的存在であるアメリカを巻き込む形で問題になる可能性が高い。しかし、そのアメリカも、イラクやアフガニスタンでかなり力を費やしたので、弱体化が進んでいる。そういうふうに状況は変化してきています。その中で日本がどのように対処していくかということは、非常に重要な課題だと思うのです。

工藤:武藤さん、経済的な観点からみると、100年前との類似性というのはあるのでしょうか。

武藤:繁栄している国のそばで、それをしのぐように勢力を拡大する国家が出現するというパターンは、歴史を遡るとたくさんあったと思います。かつてスペインやポルトガルの全盛期に成長してきたイギリス。それからイギリスが大きくなった時に勢力を拡大したフランス。ドイツが急速に成長して、周辺国がどう対応したらいいかを悩んだ時代もあります。さらに、ロシアが拡大していって西欧がどう対応したらいいか悩んだ時代、など枚挙にいとまがありません。こう考えていくと、奇跡的な経済復興を遂げた日本の隣で、中国が非常に大きくなったという状況は、これまでの歴史によく似ていると思います。


「経済」よりも「アジア」を懸念する有識者

工藤:有識者アンケートの2問目で、「あなたが、新年、日本の社会や政治のことで特に気になっていることは何ですか」と質問したところ、42.6%の人が「日本と中国・韓国との関係改善の問題」と回答しました。私たちの有識者アンケートでは、定期的に、政治に対する認識を聞いているのですが、去年は圧倒的にアベノミクス、経済の動向を気にする声が多くありました。今回も「安倍政権の経済成長が成功できるか」との回答が34.8%と依然高い数字になっていますが、「アジアとの問題」を危惧する声がそれを上回りました。

宮本:有識者の皆さんは、日中関係・日韓関係を、単なる2国間関係にとどまらないより大きな構図の中に置いているのだと思います。日本の経済成長は、平和な国際環境があればこそ可能になるものです。だとすると、近隣諸国との関係はやはりきちんとしておかないと、日本の将来が不安定になる、という危惧がこの回答傾向の根底にあると思います。

 日本社会が、ミクロの極めて個別的・具体的な話に入り込んで、些末な議論を繰り返している状況から、もう一回全体を見て、その問題は全体の中でどのような位置付けになっているのだろう、ということを考えていくことで、物事に対する答えが違ってくると思います。有識者の皆さんはそういう視点から判断し、このような回答のプライオリティ付けになったのではないでしょうか。私も基本的には同感です。

工藤:回答結果をもう少し詳しく見ると、一番多いのは「近隣国との問題」で42.6%、その次の「経済成長戦略が成功できるか」が34.8%、その次が「原発の再稼働」で28.7%、そして「財政再建の道筋」が23%、その次が「将来を見据えた社会保障の改革」が19.7%、そして17.2%で「TPP交渉の問題」となっています。

 確かに、政策的な課題としては重要なポイントをとらえていると思います。ただ、それ以降の回答を見ていくと、「日本の右傾化傾向」が15.2%、そして「安倍首相の考え方」が11.9%と続き、少し毛色が違うところにも関心が出てきていることが見えてきます。逆にこれまでの有識者アンケートでは比較的多かった「中国の大国化に伴う挑発的な行為」との回答は11.1%にとどまっています。日本の国内問題をより意識する有識者の傾向が出てきているのではないでしょうか。

明石:憲法改正や集団的自衛権の問題などが浮上し、社会全体の右傾化傾向に対する不安を感じ始めている有識者が増えてきている、ということを反映していると思います。アベノミクスその他の政策については理解できるし支持できる部分が多いけれど、その一方で政策の背後にある首相のある意味では情緒的、イデオロギー的な要素に、危惧を覚え始めている有識者が多いというのは非常に顕著な事実で、これを我々は無視してはいけないと思います。

武藤:中韓との関係を心配する有識者は、おそらく首相の考え方や社会全体の右傾化ということに対しても同じような懸念を持っていると思います。去年、経済に対して一番関心が集まっていたのは、デフレ脱却のめどが立っていなかったからですが、今はそのめどが少しずつ出てきたので、今度は関心が安全保障問題に移っているのだと思います。しかし、この安全保障の問題は、表面的なメディアの情報からは、いったい今後うまくいくのかどうか、見通しが立たない状況です。有識者はそこに大きな危惧を持っているのではないかと思います。

 ただ、一般世論については、まだそういった懸念も表に出てきていない、という感じがします。ですから、このアンケート結果と一般の世論との間に若干ギャップがあるのではないかと思います。


期待と懸念に揺れる有識者

工藤:この有識者アンケートは継続的に実施しているのですが、一般世論の先行指標になる場合も多いですね。回答者の属性を見ると、メディア、官僚、企業経営者などがほとんどですから、いろんな形で深く社会に関係している人たちが多いと思います。

 その結果を見ていると、有識者の皆さんも悩んでいるように感じます。例えば、別の設問で「安倍政権の新年の取り組みに期待していますか」と尋ねたところ、「期待できない」との回答も32.0%あるのですが、「期待できる」という回答も24.6%と3割近くいるわけです。「どちらともいえない」との回答が35.7%ですから、有識者の皆さんも、安倍政権の取り組みを完全に見放しているわけではなく、何とかしてほしいと思っている。

 一方で、「あなたは、2014年は安倍政権にとってどういう年になると思うか」というところで、「リーダーシップを発揮して、課題解決に向かって着実に動いていく一年になる」との回答は17.6%にとどまりました。逆に、「さまざまな問題が表面化し始め、政権運営に黄色信号がともる一年になる」との回答が52.5%と半数を超えています。

 経済の問題は、ある程度の結果が見えてきた一方で、靖国参拝を含めてアジア外交に対する懸念が出てきている。その中で、安倍政権に対して期待はするのだけれど、やはりちょっと厳しい、まずいのではないかという有識者の声が出ているように見えます。

宮本:安倍政権は混迷を極めた民主党政権の後に登場したということで、それと比べれば安定感があるし、実際なかなか滑り出しもよかったので、これまでの評価は高かったのだろうと思います。ただ、大部分の日本国民が安倍政権に期待しているのは、とにかく経済を安定的な成長の軌道に乗せてほしい、ということだと思います。しかし、まだ道半ばの状況であるにもかかわらず、それ以外の動きが出始めた。基本的には、安倍首相に安定した長期政権を担ってもらい、成果をあげる政治を期待している気持ちが依然として強いにもかかわらず、「本当に大丈夫かな」と思わせるような要素が出てきたということで、今後の難局を予想する回答結果になったのだと思います。ですから、安倍首相には、大部分の日本国民の期待は何か、ということを振り返っていただいて、そこに全力投球をしていただきたい。そのためにも、やはり経済を成長軌道に乗せることが重要だと思います。経済がよくなってくると、国内社会が安定してきますし、外交でも余裕をもって相手国を見られるようになるという面もあるので、やはり経済を重視してほしいと思います。

明石:この有識者アンケートは、一般世論の先行指標になりうる、とのことですが、その観点から改めてこの調査結果を見ますと、社会の右傾化に対する懸念は徐々に上がってきているわけです。確かに今、経済がよくなってきた。そのことで日本社会が明るくなってきているのは事実ですが、社会の右傾化に対する懸念が明らかに見え始めているという意味では、安倍首相は少し全体の舵を、右から心もち左に変えることも必要なのではないかな、と思います。

武藤:経済は確かに順調なのですが、その中でも一つ国民が心配していると思われるのは「持続性」ですね。これまではいいのだけれど、その好調がずっと続いていくものなのかどうか。その根底にあるのは、アンケート結果にも出ていますが、安倍政権は現時点では原発、財政再建、高齢化への対応など、より長期的な取り組みを要する課題には十分対処できていない。経済にしても、当面のデフレ脱却に対してのカンフル剤は効いているのだけれど、持続可能性を高めるためにはどうしたらいいかということをしっかりやってもらいたい、という期待と懸念が入り混じっているのだと思います。このところ日本では経済政策でこれだけ成功している例は他にありませんでしたから、これが失敗に帰するようなことがあったら、日本にとって大変不幸なことだと思います。

工藤:去年の参院選の時に言論NPOは政策評価をやったのですが、安倍首相は「きちんと成果を出す」ということを強調していました。この「成果」ということにこだわる政権は日本では久しぶりだな、とその当時は思いました。

 しかし、アジア外交については、なぜ成果を出すということにこだわって取り組まないのか、そこが逆に気になります。政治家としての課題解決よりも個人としての主義主張を優先させてしまうのではないか、という気がしているのですが、どうでしょうか。

宮本:今回の靖国参拝で対外関係には相当傷がついたと思います。靖国参拝については、安倍首相は、大局的な観点から我慢している、と思っていた有識者も多いと思います。実際は個人としての理念、主義、価値観を優先にしてしまったということです。しかし、外交では、特に地域全体をカバーするような問題に関しては、各国と協調してやっていかないと実現しないものも多い。やはり、積極的平和主義を大々的に掲げた以上、その中身をさらにつまびらかにして、そしてアジア・世界の人に問うということをぜひやっていただく必要があると思います。

工藤:明石さん、今回の靖国参拝に関して、海外メディアの論調と、日本の国内における論調はかなり違いますよね。これはどこに問題があるのですか。

明石:戦後約70年続いてきた「平和」というのは、あくまでも戦争が終わった段階での連合国の考え方に基づいて国連が作られ、またそういう連合国の考え方を基調としてサンフランシスコ講和条約が作られ、そういう基本的な体制の下での安定と秩序です。安倍首相の靖国神社参拝の問題が各国で懸念を持たれているのは、もしかしたら、この靖国参拝という行為がそのような戦後の基本的な体制に対する一つのチャレンジだと受け取られたからだと思います。だとすれば、そういう懸念は根拠のない懸念である、ということを日本側から示す必要があります。そこではやはり、我々が日本の中でモノローグ(ひとりごと)を繰り返すのではなくて、外国と対話すること、外国の意見をよく聞き日本の意見を分かるような形で伝えることが大事ではないかと思います。


日本から理念を打ち出すべき

工藤:冒頭で、100年前も今も、新興国と既成勢力の争いがある、というお話があり、今も、新興国を含めた形でのパワーバランスの大きな変化が世界やアジアで起こっています。その中で、世界のために日本は何を実現していくのか、といった理念の議論がありません。大きな日本のビジョンについての議論がなく、内向きになっている中で、世界の人たちから日本のやっていることについて誤解を招いているような気がするのですが、どうでしょうか。

宮本:私もビジョンはものすごく大事だと思っています。そのビジョンを日本から発信するだけではなくて、諸外国と議論に入るべきです。韓国とも中国ともASEANともアメリカとも「私たちはこういうビジョンで、こういう東アジアをつくろうと思っています、皆さんいかがですか」ということで、各国がそちらの方向に行くように、日本が最初のボールを投げるべきだと思います。

武藤:世界に発信するためには、しっかりとした理念が必要です。議論でもその理念がきっちりしていれば通用するし、理念が自己にのみ都合のよいものだと通用しませんので、しっかりとした理念ある外交政策を確立していくことが一番重要になると思います。


有権者にも求められる当事者性

工藤:昨年 10月に言論NPOは中国と民間レベルで「不戦の誓い」を合意しました。あの時に、課題解決に向けて、いろんな人たちが向かい合っていくという強い覚悟を共有できました。その結果、日本と中国という異なる国の間でも、何か大きな一つの成果なり変化を作り出すことができる、ということを私自身も非常に強く実感しました。今年も日本やアジア、世界でいろんな課題が生じた時に、それをきちんと解決するための動きに、私たち市民が当事者意識を持って関わっていくための強いサイクルを作りたいと考えています。そこで、今回のアンケートでは「今年、日本が直面する課題を解決するための大きな流れの主体は誰だと思っていますか」と尋ねてみました。

 これに対する回答では、「安倍首相」が21.7%で2番目に多い回答になりました。それを上回って一番多かった回答は、35.2%で「有権者や市民」でした。つまり、課題解決をするためには私たち自身が何をするのかが問われているのではないか。単なる傍観者ではなく、政治を自分たちの問題と捉えてチャレンジしていくということが必要なのではないか、という有識者の考えが出てきていると思います。それに対して「メディア」に対する期待は3%台にすぎず、「経営者」「学者」、「地方の首長」も低い割合にとどまっています。ほぼ「有権者や市民」と「安倍首相」に分かれてきているという結果でした。

 この結果をどのように見ればいいのでしょうか。そして今年、私たち自身にとっては何が問われているのでしょうか。

明石:この数字が非常に興味深いのは、安倍首相に対する期待度の高さですね。ここ7~8年の間で一番期待されている政治家ではないでしょうか。市民や有権者に対する期待はそれよりも大きい。しかし、「有権者や市民」というのは、「安倍首相」という具体的な一人の人間、政治家に対する期待よりは、漠然としていますね。これは期待というよりは市民としての自分自身に対する「覚悟」だと思います。

 ただ、各個人が課題解決に向かい合っていくことは、なかなか難しい。そこで、市民に一つの具体的なチャンネル、自己表現の機会を提供する言論NPOの果たす役割は大きいと思いますし、それは一つの大きなチャレンジになると思います。有権者や市民の声をどのようにして政治ないしはメディアの面で、具体化する方策を考えるということが、我々にとって大事になっているという気がします。

武藤:安倍首相にこれだけ多くの人が期待しているというのは、歴代の首相と比べると極めて高い水準ではないかと思います。まず、経済では、アベノミクスがうまく回転し始めたので、何とかこれをやり通してほしいという期待が大きいと思います。安倍首相もそれは自分で一番よく認識していて、これを頓挫させてはいけない、あらゆる手を打つ、ということを盛んに言っている。

 一方、外交や安全保障においては、何をもって「課題が解決した」といえるのか、わかりにくい面があります。経済のように「個人の給与が上がる」とか、「デフレ脱却する」などの明確な指標がありません。中国・韓国といった国々とうまくやっていくという課題の成果については、どうしても抽象的な認識しかできない。だから、安倍首相に「しっかりやってくださいよ」という意味で、首相の期待値もある程度高くなったのだと思います。もっとも、政治家も結局は国民の声を聞くわけなので、安全保障や靖国問題、日本の歴史認識、尖閣問題についても、安倍首相にすべてを任せるわけではなく、具体的な国民としての判断を表明するということも必要だと思います。そこで、課題を解決するのは有権者だ、というのも実に真っ当な認識だと思います。

宮本:安倍首相が比較的そのように高い評価を得ている最大の理由は、これまで経験を積んできたし、トップに立つためには何を考え、やらなければいけないかということを、若い頃から考えてきたということがあると思います。

 ただ、首相個人に成果を求めるというのは、当たり前だと思います。指導者が一番責任を持つのであって、指導者が一番物事を成し遂げることができるわけですから。そういう意味では、指導者というのは本当に大事なのですが、果たして、そのような指導者を、我々はコンスタントに出していくような政治の仕組みを持っているのか、ということになると、非常に暗澹たる気持ちになってしまいます。

 そこで私は、有権者が力をつけて、「だいたいこっちの方向じゃないか」「こういうふうに行ったらどうか」と政治に対して物申せるような市民社会になればいいなと思っています。そうすると、いわゆる「世論」ではなくて「輿論」の喚起にこれまで取り組んできた言論NPOが、こういう動きをどうやって作るか、ということが今年の課題であり、同時に相当喫緊の課題だと感じています。


言論NPOに求められるのは議論の環境づくり

工藤:今日の議論の冒頭で、第一次世界大戦当時と現代の類似性の話がありましたが、ひょっとしたら尖閣問題が大きな紛争の火種になり、かなり大きな事態を引き起こす可能性があるのではないか、ということを、日本国内ではまだ大きな課題として捉えられていないような気がします。現時点では、課題解決に向かい合うことを政治に迫る有権者側のパワーは弱すぎると思います。有権者側も一定のパワーを持つからこそ、政治に緊張感が生まれ、緊張感があるからこそ、政治は課題解決をしなければならない状況に追い込まれていく。そして、成果を出せばそれが有権者に評価されていく、という健全なサイクルができると思うのですが、そのサイクルはまだできていない。私は宮本さんのお話から、今年はそれを作る年なのではないかと思いました。そういう意味で、今年、言論NPOに期待すること、そういう状況をどう変えていけばいいのかということを、最後にお聞かせください。

明石:我々は非常に難しい問題の解決を迫られていると思います。一番市民が心配していることは、尖閣の問題を中心とした日中関係、日韓関係だと思います。ただ、それに関しては、日本の市民も、下手をすると感情的、情緒的に反応してしまいます。欧米は、距離があるということもあり比較的冷静で、グローバルな視点からこの東アジアを見ています。我々日本の市民層に期待されているのは、当事者である我々も客観的になり、冷静にこういう問題を分析し考えることができるのか、ということになってきます。そこで、言論NPOも市民が冷静的に考える上でのデータや機会を、ぜひとも提供してほしいと思います。

武藤:有権者に大きな影響を与えるのは、私は広い意味でのオピニオンリーダーだと思いますが、そのリーダーの一つとしての言論NPOの役割というのは非常に重要だと思います。特に、今の日本の状況を見ると、言論NPOは相当重要な役割を演ずるべきなのではないかと思います。というのも、オピニオンリーダーとして説得力を持つためには、実績が非常に重要になります。その意味では、特に中国問題では言論NPOが10年にわたって努力してきたわけで、十分に有資格者です。そこで、オピニオンリーダーとして、言論NPOの活躍に期待したいと思います。

宮本:以前、明石さんが、日本外交の課題として「世界に対する発信力が必要だと指摘されることが多いが、受信力ももっと強めないといけないのではないか」とおっしゃっていましたが、私も同感です。日本の社会の体質がそうなっているせいか、ある問題に対して小さく小さく、ミクロに問題に入っていってしまい、大きく外を見ることができないという面があります。冒頭に申し上げた通り100年前の日本もそうでした。明治時代の頃の方が、もっと世界に目が向いていて、いろんな広い視野から個別具体的な問題を判断できていたのに、その力が大正・昭和になるとだんだん弱くなっていったのです。

 そういう受信力を強めた上で、ようやく今度は発信力の話になる。ですから、そういう意味でも言論NPOが、対外関係についても一つの核として、頑張っていこうという方針を持っているのは非常にいいことだと思います。しかし、くれぐれもお願いしたいのは、外に対する発信と同時に、受信にも注力していただきたい。日本や東アジアの問題を見て、国際社会ではどういう議論をしているのかということについても、より多くの日本の人が理解できるようにしてほしいと思います。

工藤:今日は、昨年の「東京-北京フォーラム」で合意した「不戦の誓い」に関わっていただいた3人のアドバイザリーボードの方々に来ていただいて議論をしました。

 政府間外交がきちんと機能するためにも、言論NPOは、日中・日韓だけではなく、東アジアの秩序づくりについて、いろんな形で議論ができるような環境を作っていかなければいけない、と思っています。ぜひ、言論NPOの今年のチャレンジに皆さんも注目していただければと思っております。皆さんどうもありがとうございました。

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