激動するアジアや世界の中で、どのような日中関係をつくっていくべきか ~「第14回 東京-北京フォーラム」10月14日全体会議パネルディスカッション報告~

2018年10月14日

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YKAA1676.jpg 10月14日に開幕した「第14回 東京-北京フォーラム」。基調講演などに続いて、日本側の司会を元中国大使の宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表)、中国側の司会を中国人民大学新聞学院院長の趙啓正氏(元国務院新聞弁公室主任)が務めるパネルディスカッションが行われました。


国民一人ひとりのレベルでの信頼関係を築く、強化していくことが重要

miyamoto.jpg 最初に宮本氏は、「アジアと世界が激変する中で、40年の節目を迎えた日中平和友好条約の今日的意義に焦点をあて、日中間でどういう環境を作っていけばいいのか」、日中両国のパネリストに見解を求めました。趙啓正氏は補足するように、「日中は呉越同舟できるのか。中国の一帯一路や第三国での日中協力、支援など、新たな実務的協力を通じ、日中だけでなく北東アジア、アジアが享受できる地球丸にしていきたい」と熱意を口にしました。

kawaguchi.jpg この問題提起に対して元外務大臣の川口順子氏(武蔵野大学客員教授)は、「日中関係は、風が変わったと感じているが、先日、言論NPOが発表した世論調査を見ても明らかだ」と指摘。中国からの訪日客は、日本の観光地だけでなく、各地のいろいろな所を訪問しており、中国人は見慣れた存在になってきた実感を語りました。また、川口氏は、「日中両国は今まで、何をなすべきか、ということが議論の対象だったのが、訪日客増加によって私たちの生活の一部になるまでに大きく変化してきた。これからは、こうした関係の安定性を更に発展できるかがキーワードになるだろう」と現在の日中関係を前向きにとらえつつ、「日中双方を議論する課題ではなく、それぞれの生活を経験し、国民一人ひとりのレベルでの信頼関係を築き強化していくことが重要だ」と日中関係の理想の姿を語りました。


今以上に密接な日中関係の在り方に向けて

gi.jpg 次に中国国際経済交流センター副理事長の魏建国氏がマイクを取りました。「過去40年、日本企業は中国をサポートしてきた。1980年初めの三種の神器は、冷蔵庫、洗濯機、テレビで、みんな東芝、ナショナル、ソニー、日立のブランド名を知っていた」と、率直に日中平和友好条約が中国の改革開放に果たしてきた成果を語りました。近年も、日中間の貿易は大きく変化し、今年1~8月の貿易額は、2141億ドルで昨年同期より11.2%も増加し、中国の対日輸出額は945億ドルで去年より8%増、日本の対中輸出額は1,196億ドルで14%も伸びていると、細かい数字を上げて好調な日中経済関係を説明しました。

 さらに、今年の中国人の訪日観光客数は、これまでに800万人にのぼり、今年は1千万人を越えるかもしれない、と日本側より大きく予測する魏建国氏です。「私たちは、日本の隅々の変化を見たい。今回は、ゴミ処理施設を視察する予定で、こういうことも日中が交流を重ねているからできるのだ」と、顔を綻ばす魏建国氏。日中の更なる発展に向け、第三国市場の開拓として、日本の商社と協力して行うカザフスタンでのプロジェクト、UAEでの1,770メガワットのソーラー発電事業などを挙げ、「中国人はブランドがあれば、大枚を払う。中国最大級の消費市場は5億人と言われていて、2020年には27兆元と予測されている。日中は手を携えてFTAを結ぶべきだ」と、米中貿易戦争の状況も踏まえながら、魏建国氏は今よりも密接な日中経済関係のあり方を語りました。


40年で築き上げてきた中日協力は「不老不死の薬」

r.jpg 第13期全国人民政治協商会議外事委員会副主任委員の劉洪才氏も、好転する中日関係を振り返りました。「1978年当時の人的交流数は年間1万人程度であり、香港を経由して汽車で北京に入ってくる長旅だった」と当時の状況を思い出しながら、「今や、モノ・人の往来で、大きな進展があった。四つの政治文書は発展・繁栄の印で、目に見える利益を持ってきた」と語ります。さらに、中日のGDPは世界の20数%を占めるまでに成長し、アジアでは60%を上回っているとの統計を示しながら、「この40年間で中日協力という"不老不死の薬"を手に入れてきた。初心を忘れず、より高い、より広いレベルで中日関係を強化していくべきだ」と強調しました。さらに、「中国の一帯一路で新たなチャンスがある時に、北東アジアで恒久的平和のために貢献すべきで、そのためにも意思疎通をしっかりしていきたい」と、述べる劉氏でした。


重要なのは、日中両国が本音で話し、国民が共有し、相互理解が増していくこと

ishiba.jpg 日本側から衆議院議員で自民党総裁選を戦った石破茂氏の発言になりました。40年前、石破氏は大学4年生で、「お互い漢字の使用国であり、何となくわかりあっているような感じがしていた」と当時の様子を振り返ります。その上で石破氏は、日中問題の基本姿勢に疑問を提起しました。「日中平和友好条約にあらゆる覇権に反対するとあるが、一体、覇権とは何か、具体的に日中で話し合ったことはあるのか」と会場を埋めた聴衆に問い掛けました。さらに、「戦略的互恵関係と言っているが、お互い、どのくらい理解しているのか、はなはだ怪しい。双方が疑問を抱きながらも、それを放置しておけば、"呉越同舟"も"同床異夢"になりかねない」と警告し、「隔靴掻痒(かっかそうよう)の議論でなく、本音の議論で問題をオープンにしたい」と両国に迫るのです。加えて「日本は、日米安保という異様で、変わった安保を維持してきた。これはサステナブル(持続可能)なものか、中国と議論すべきだ」と語る石破氏です。

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 話しは国際連合(UN)のあり方にも及び、「UNとは何か。UNITEDを"国際"と訳したのが間違いの始まりで、戦勝国の集まりであり、連合国、連合体だ。中国は戦勝国として、国連で常任理事国を務めているが、そこでの役割をどう考えているのか。世界の平和で共有認識を持っていきたいが、中国が、鄧小平氏が言っていた"韜光養晦(とうこうようかい)"を忘れたら、世の中どうなるかわからない」と、中国側の大国的、強国的態度にクギを差しました。最後に「お互いが本音で話し、国民がそれを共有し、相互理解が増していく」。それが重要なことと強調して石破氏は、言葉を結びました。


日中の民間との協力でビジネス環境の整備を

yamazaki.jpg 前財務官で国際医療福祉大学特任教授の山﨑達雄氏は、「過去40年ではっきりしているのは、世界のグローバルな自由貿易が、日中両国をここまで発展させてきたということだ。私たちの関係を地球丸とすれば、第三国で質の高いインフラで協力すべきで、今後もこうした発展をしていきたい」と将来への抱負を述べました。そのためにも、「民間との協力でビジネス環境の整備に力を入れ、人民元と円のスワップや、人民元の使い勝手の良さを図るのもいい。第4次産業革命を迎えて、先端技術、lotとか自動運転とかでの日中協力、知的財産、WTOの機能強化の面でも協力があっていい」と話す山﨑氏でした。


中日関係促進のため、米国との関係についても注文

 経済、人とモノの交流では、世論調査が示す通り、明るい兆しが見えている日中関係ですが、軍事面ではどうか。世論調査では、まだまだ日中両国民は、互いの国に脅威を感じている、と回答していることを引き合いに出し、中国軍備管理軍縮協会理事の朱成虎氏は、中日発展を安保面から注目しました。まず、朱成虎氏は、中国人は日本を軍国主義が復活しているとみているものの、27万人の自衛隊と軍事費GDP比1%未満では軍事大国にならない、と分析。また、中国は南シナ海での航行の自由作戦は認めておらず、海洋法の認識が違うとしながら、軍事拠点化しているのは軍艦などを派遣している米国だ、と警戒を強めています。

syu.jpg さらに、朱成虎氏は、米中関係を考える上で、「米国は摩擦が起きると、外交面で他の国に手を広げてくるが、その場合、日本はどうするのか。米国を助けるのか」というのが日米同盟下にある日本への疑念だと話しました。「北朝鮮問題でも、日米では食い違いがあるのではないか。この問題は日中が参加しないと解決が見えず、日本は米国に働きかけなければ、日本と韓国は大きな損害を受けるだろう」とまで指摘、「中日関係促進のため、火に油を注ぐようなことは止めてほしい」と、日本側の特にメディアに注文をつける朱成虎氏でした。


今、直面している課題を日中間で率直に話し合う時期ではないか

 中国と米国の関係が話題になったところで、日本側から発言が続きました。「日本は、中国をとるか、米国をとるか、といったことで物事は考えていないし、それで行動を判断してもらいたくない。日本がよってたつのは、国際ルールを守っているかどうか。そのルールを明確にすることで、物事を考えている。日米同盟は二国だけで、静かに語るものだと思う」と話したのは川口氏。また、石破氏は、「新しい国際環境で安全保障をじっくり考えなければいけない。国連(UN)をどうするのか、北朝鮮の核をどうするのか。率直に、日中がどういう方向に進むべきか提案すべきではないか。さらに、北朝鮮問題では、どういう形で解決しようとしているのか」と、中国側に考えを質します。

 これに対して朱成虎氏が答えます。「北朝鮮問題は解決できるとは思っていない。トランプ大統領は準備不足で、米朝の政策目標が一致していない。米国は一括的解決を求め、北は段階的解決を狙っている。今、非核化を言っているのはトランプだけではないのか。金正恩は真摯に議論することで、見返りを求めているようだが、それは難しい。絶体絶命に追い込まれたら、北朝鮮は受け入れられないと思う」と分析しました。


見通しにくくなる将来を見据えて、日中間で本質的な議論を

 司会の宮本氏は、「米中関係は、不確定要素があって予測がつかない。そういう状況下で相手に何を言ったらいいのか」とパネリストに問いました。石破氏は、「外交を内政の求心力に使うな」と指摘。中国で一時期、反日的な行動が多かったことを挙げ、「反日は政治的に利用されている。そして、日本経済が落ち込むと、その裏返しで、反中が言われるが、お互いに何の利益にもならない」と語りました。

 さらに、「今後、日本は危ないことになる」との見解を示し、特に、「2080年には人口が半減する中で、どうやってこの国の持続性を守っていくのか」と会場に語りかけました。一方で、中国も中産階級が形成される前に、どうなるかわからない現状を挙げ、「グローバリズムは、国内的には格差を拡大するのだ」と、近い将来を見据えて、日中間での本質的な議論を呼びかけました。

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北朝鮮は小さな中国になりうるのか

 更に石破氏は、「北朝鮮は、小さな中国になる可能性はありうるのか」と、再び中国側に問いました。朱成虎氏がマイクを取り、「北朝鮮は、国土が広くなく、人口も少ない。だから軍事大国になるのは難しい。北が核兵器を持っている目的は、中国、韓国、日本を狙ったものではなく、自らを守りたいからだ。朝鮮半島を統一し、北東アジアから戦争の種を無くす。日中など、提携できることは多い」と答えました。

 最後に宮本氏は、「日中は引越しすることはできず、日本はブラジルに行くことはできない。だから平和協力で、安定した関係、良い関係を作るしかない。そのために知恵を出し合う。本音で話し合う時期にきたのです」と、聴衆に呼びかけ、パネルディスカッションを締めくくりました。

 14日午前の全体会議を終え、議論は政治・外交、安全保障、経済、メディア、特別の5つの分科会に移りました。