言論外交の挑戦

北東アジアの平和に向け、日中の「建設的な安全保障関係」の具体策を議論  ~安全保障分科会 報告

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 安全保障分科会では、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国特命全権大使)と陳小工氏(元中国共産党中央外事弁公室副主任、元空軍副指令)による司会の下、「北東アジアの安全と平和秩序を構築する日中の責任」をメインテーマとしたパネルディスカッションが行われました。


米中間の4つの対立点

 前半では、現在のアジアを取り巻く安全保障課題について広範な議論が行われました。冒頭の問題提起では、まず中国側の江新鳳氏が登壇。江新鳳氏は、北東アジアの安全保障情勢に関する現状認識を、「落ち着いている」とする一方で、中米関係に起因する不安定要素もあると指摘。その背景には2017年以降、米国が対中認識を転換し、両国関係を戦略的競争関係と位置付けたことがあると分析しました。そして、そこから始まった"中国封じ込め"には様々なものがあり、その結果現在の米中間には4つの大きな対立点があるとし、その最も顕著なものは現在進行中の経済・貿易問題であると語りました。

 江新鳳氏は2番目として南シナ海問題に言及。この海域で展開されている米国の航行の自由作戦や軍事演習は中国の主権に対する重大な挑戦であり、緊張をエスカレートさせかねない危険なものであると厳しく批判しました。

 3番目の台湾問題についても、台湾保証法の成立や台湾海峡への軍艦派遣をはじめとして「一つの中国」原則に反するような様々な米国の行動を例示しながら、「中国の核心的利益である台湾で"火遊び"はするべきではない」と強い口調で批判を繰り広げました。

 そして4番目として、米国の中距離核戦力全廃条約(INF条約)の脱退と、ミサイル戦略のアジアにおける拡大転換を挙げました。こうした動きはアジアの軍事バランスを崩すともに、軍拡競争を招きかねないものであるとの見方を示し、特に日韓へのミサイル配備は北東アジア地域の安全に重大な脅威をもたらすと警告しました。

 こうした対米批判を繰り広げた後、江新鳳氏は北東アジア地域の安全保障をめぐる中国の方向性についても解説。北朝鮮の非核化については、米朝交渉が停滞しているものの、平和的な解決の道はまだ残されているとし、中国としても米朝双方の間に立って解決に向けて尽力していく方針であると説明しました。

 日中間の安全保障上の課題としては、防衛交流の再開や海空連絡メカニズムの運用開始など明るい材料が多いことを評価しつつ、まだ平和と安定の基盤は脆弱であり、潜在的なリスクは残っていると指摘。例えば、東シナ海の海上や空における偶発的な事故に対する懸念を完全に払拭できる状況には至っていないとし、今後も日中間の協力の強化と信頼の構築を不断に進め続けることが必要であると主張。そして、地域と世界の平和のために共に貢献していくべきだと日本側に呼びかけました。


交流を進めつつ、広範かつ急速な軍事力の拡大を続ける中国への警戒を怠るべきではない

 日本側の問題提起には、防衛大臣を務めた経験もある衆議院議員の中谷元氏が登壇。中谷氏はまず、日中両国はアジアと世界の平和と繁栄のために欠くことができない大きな責任を有しており、それ故に最も重要な2国間関係のひとつであることを強調。その上で、尖閣諸島をめぐる対立から冷え込んでいた両国関係もここ数年は改善基調であり、それに伴って防衛交流も再開されてきたことを前向きに評価しました。その中で中谷氏は、今月8年ぶりに行われた日本の自衛隊と中国海軍の親善訓練では、中国艦艇が台風19号による日本の被災を見舞うメッセージを掲げて、それを見た日本側が感激していたというエピソードや、4月に山東省・青島港で開かれた人民解放軍海軍創設70周年記念の国際観艦式に、海上自衛隊からは山村浩・海上幕僚長及び護衛艦「すずつき」が派遣されたこと、そして、長年の課題だった海空連絡メカニズムの運用が開始されていることなどを紹介しつつ、今後も信頼醸成を図りながら日中防衛交流を新たな段階に引き上げていくべきであると呼びかけました。

 一方で中谷氏は中国側に釘を刺すことも忘れませんでした。30年間で48倍、この10年間で見ても2.5倍というきわめて高い水準で国防費を増加させている現状に触れつつ、中国軍はこれを原資としてより遠方の海空域で活動する能力を獲得することを目指していると分析。太平洋、日本海、東シナ海といった日本の周辺における活動の高頻度化、経路の多様化を指摘すると同時に、ミサイル能力の高度化にも着目。様々な中長距離弾道ミサイル(IRBM)の開発と保有が進んでいることに対して懸念を示しました。例えば、グアムの米軍基地を射程に収める弾道ミサイル、巡航ミサイルを約2000基配備する計画に言及した上で、これは仮に中国がINF条約に加盟していたとしたら実に計画の95%が条約違反になるものだとしてその脅威の深刻度を明らかにしました。

 また、尖閣周辺におけるさらなる活動拡大や、7月に中国の戦略爆撃機が、ロシアの爆撃機と共に日本海や東シナ海を飛行したことなども併せると、こうした近年の中国の動きは「日米韓安全保障体制への挑戦」であると断じました。とりわけ東シナ海情勢をめぐっては、防衛交流を進めたり、ホットラインを機能させることの重要性に再び言及しつつも、それとは別に冷静かつ毅然とした対応が日本側には求められると語りました。

 中谷氏は同時に、江新鳳氏が米国のINF条約脱退を批判したことを引き合いに出して、そうであるならば中国は米国と共に「新INF条約」を締結すべきだと提言。それがこの地域の平和と安定にも寄与すると語りました。

 最後に中谷氏は、現下の世界の課題についても言及。一国主義的・排外主義傾向やポピュリズムの台頭を挙げるとともに、不確実性の高い時代においては、こうしたことも念頭に置きながらやはり日中関係を強固なものにしておく必要があると語りました。


 問題提起の後、ディスカッションに入りました。

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日中防衛協力をいかにして再構築すべきか

 秋山昌廣氏は、米国が中国を戦略的な競争相手だと見做すようになったという江新鳳氏が指摘したことを受け、これはワシントンではすでに超党派の見方となっており、今後も変わらないとの見方を示しました。その上で秋山氏は、米国の安全保障戦略が、ミサイル防衛だけでなくインド太平洋戦略の提示なども含めて他分野・他地域で転換をしていることは、中国は勿論、日本にとっても大きな影響を及ぼすものであると指摘。だからこそ、日中がこの米国の転換にどう向き合うのかということを議論する意義があると語りました。

 秋山氏は、中国の急速な軍事費の拡大については、それ自体は批判するつもりはないと前置きしつつ、しかし歴史の教訓として、強大な軍事力を得た国はえてして国家間に生じた問題を話し合いではなく、力を持ってして解決しようとする強権的な姿勢になってしまうものであると指摘。現に中国は南シナ海ではそのような姿勢を見せていると苦言を呈しました。その上で秋山氏は、尖閣諸島問題の解決方法に言及。これは米国などを引き込んだマルチの解決ではなく、日中2カ国間での話し合いによる平和的な解決が十分に可能なものであると主張。そのためにもまず、中国は尖閣周辺に日常的に送り込んでいる多数の船舶をまず引き上げるべきだとし、それが出来て初めて日本側としても話し合いのテーブルにつく余地が出てくると語りました。

 秋山氏は最後に、日中の安全保障関係の構想についても言及。単なる防衛交流にとどまらず、戦略対話にまで発展させていくべきだと提言しました。


 張沱生氏は、秋山氏の「中国は軍事力に頼んだ問題解決をするのではないか」という趣旨の懸念に対しては、中国は改革開放以降でいえば一度ベトナムと軍事衝突をしたことはあるが、冷戦終結以降では一度もないこと、むしろ米国の方が度々戦争を手段とした解決に訴えてきたことなどを挙げ、その懸念はあたらないと反論しました。

 その上で張沱生氏は、朝鮮半島問題や台湾問題、東シナ海問題など北東アジア地域の平和と安全のための課題を提示した上で、これから日本側に求めたいこととしては、安定的な日中関係構築のための努力と、日米2国間同盟関係依存を脱却し、マルチの枠組みへ志向を切り替えることだと注文を付けました。


 呉懐中氏は、中国は現在、中米関係という"大きなバランス"に関心が集中しており、改善基調にある日中関係については"小さなバランス"と見ている節があると説明。しかし、中国が2018年策定の「防衛計画大綱」及び「中期防衛力整備計画」を見て日本に懸念を抱いたように、今年の日本も人民解放軍の70周年パレードを見て中国に懸念を抱いたであろうと推察し、こうしたバランスをめぐる温度差については中国側も配慮する必要があると語りました。

 また、呉懐中氏は、バランスを取る上で必要な視点として、相手が最低限何を求めているのか、というボトムラインを把握することであると指摘。尖閣問題を話し合いで解決すべしという秋山氏の発言を受けて、ここでの中国のボトムラインとはすなわち、日本側が尖閣問題を領土問題として認めることであるとし、特に「トラック2」であればそうした議論も可能だろうと日本側に語りかけました。


 増田雅之氏は、安全保障上の認識のギャップというものは、相手側の「意図」と「能力」のどちらに着目するかによって、より大きくなってしまうと指摘した上で、とりわけ日中間ではそうした傾向が顕著であるとの見方を示しました。その上で、江新鳳氏が北東アジアの安全保障情勢に関する現状認識を、「落ち着いている」と述べたことに対して疑問を投げかけ、北朝鮮や中国の能力向上、さらにはサイバーやAI兵器など新たな安全保障領域でのルール形成が進んでいない現状を鑑みれば、日本側から見れば「落ち着いている」とは言い難いと語りました。増田氏は、こうしたことを踏まえ、今後の議論の進め方として、情勢の不安定性、不確実性を認識した上で、まずは相手側の能力を相互に把握することなどに議論を集中させるべきではないかと提言しました。


 小野田治氏は、米国の中国に対する不信は、江新鳳氏が問題提起したような事柄以前から実は様々な伏線があったことを指摘。例えば、2016年に南シナ海における中国の海洋進出をめぐってフィリピンが提訴した裁判で、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が、中国が海域のほぼ全体での主権を規定する「九段線」には国際法上の根拠がないと認定した裁決を、中国が「紙屑」と切って捨てたことを指摘。こうした国際法に対する不誠実な態度が今日につながる対中不信の遠因となっているのだと忠告しました。

 その上で小野田氏は、国際法の解釈をめぐっては中国と日本や米国などとの間には根強いギャップがあるが、だからこそ粘り強い対話によってその差異を埋めなければならないと主張。こうした姿勢は増田氏が指摘した不確実性を解消するためにも必要であると語りました。


 中国側からは、日中首脳会談でも防衛交流の促進は合意されている事項であるし、実際に艦船の相互訪問などは着実に実現しているとしつつ、その取り組みはいまだ不十分との認識を示しました。そもそも、日中関係が長期にわたって停滞している間に、防衛当局間の認識のギャップはうず高く積み上がり、それは1年や2年の交流では解消できるようなものではないと指摘。しかも、安全保障とは元来センシティブなものであり、一気に転換を図るようなことは性質上困難であるため、時間がかかっても小さなことからコツコツと交流を積み上げていくことでしか解消はできないと説きました。

 その上で氏は、日中が防衛協力を深化させるためのメニューを提示。そこでは、両国が災害大国であることから防災における協力体制の構築や、両国が積極参加している国連平和維持活動(PKO)を協力の舞台とすることなどを挙げました。また、日中間の対話ではしばしば「相手の能力や意図をはかりかねる」といった指摘が相次ぐことを念頭に、両国の防衛白書の作成担当者同士での対話についても提言しました。


 日中協力のあり方に関して中谷氏は再度発言し、サイバーや宇宙といった新たな安全保障領域では、国際ルールの整備が進んでいないことに着目した上で、こうした新領域におけるルール形成は日中協力の大きな機会になると主張しました。

 姚雲竹氏もこの中谷氏の発言に同意し、中国はそのようにして国際ガバナンスの一部になることについては積極的であると語りました。


画中国も加盟する「新INF条約」は必要か

 日中協力のあり方については概ね意見の一致が見られた両国のパネリストでしたが、核ミサイルと「新INF条約」をめぐっては平行線をたどる場面も見られました。

 姚雲竹氏は、中谷氏の問題提起にあった中国も加盟する「新INF条約」については、戦略核はともかくとして、中距離ミサイルはもはや米中ロ3カ国だけのものではなく、世界各地に保有国があるとし、したがって保有国すべてを加盟させなければならないが、果たしてそれが可能なのか、と懐疑的な見方を示しました。

 香田洋二氏は、ロシアの経済力を考えれば今後衰退することは目に見えているため、21世紀の核大国は「米中ロ」ではなく「米中」になると予測。したがって、戦略核とその運搬手段たるミサイルの軍備管理に関する国際ルールは「米中がつくるべきであり、それが50年先を見据えた人類全体に対する責任だ」、「中国はみずからを後発国だといってその責任から逃げるべきではない」と中国側に鋭く迫りました。

 これを受けて姚雲竹氏は、保有数などから見ればやはり世界の核大国とは依然として「米ロ」であるし、中国は敵の核攻撃を受けない限り核兵器を使用しない「核の先制不使用」政策を維持してきたことなどを強調し、やはり「新INF条約」をつくったとしてもそれは米ロを規律するものにすべきと主張しました。

 呉寄南氏も、米国は核兵器以外の手段で武力攻撃を加えてきた敵対国に対し、先んじて核兵器を使用する方針である「核先制使用」国であるのに対し、中国はあくまでも核を抑止力にとどめる「核先制不使用」国であると発言。この差異はあまりにも大きく、米中は対等の立場にないし、対等でない以上、同じ規律に服する必要はないとの見方を示しました。

 香田氏は、こうした中国側の一連の発言に対しては、米中双方に深く関わるが、しかし自らは核を持たない日本から見れば、この二大核大国が何ら共通の規律に服することのない現状に対しては大きな不安を抱かざるを得ないとした上で、INFは確かに米ロ間の2国間条約であるが、その今日的な意義は中国に対しても妥当する普遍的なものであることを説きました。香田氏は同時に、米中間の軍事的な対話が減少傾向にあることを憂いつつ、だからこそ、日本としては両国間の調整など果たすべき役割があると語りました。

 中谷氏も、中国が7月に発射実験を行った中距離弾道ミサイル「DF-21」を例に挙げ、これが太平洋に展開する米軍の航空母艦が攻撃対象になる可能性があることから「空母キラー」と呼ばれていることを踏まえると、「やはり、日本も他の周辺国も脅威に思わざるを得ない」と指摘。また、米国としても対抗せざるを得ないために際限のない軍拡競争を招いてしまうとの懸念も示し、やはり中国も加盟する「新INF条約」が必要であると改めて主張しました。

 議論を受けて陳小工氏は、日中韓にはいまだ認識の違いは残っているが、今年6月のG20サミットの際に行われた日中首脳会談では、「建設的な安全保障関係の構築」で合意をしていると指摘。首脳レベルではすでに合意に達している以上、認識の相違を乗り越えながら今後も「建設的」なアイディアを出していってほしいと呼び掛け、前半の議論を締めくくりました。

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