「日韓共同世論調査」をどう読み解くか

2013年5月09日

 言論NPOと韓国のシンクタンクである東アジア研究院(以下、EAI)によって、新しい日韓の民間の対話のチャネルが作られることになりました。今日は、その対話に基づく世論調査の結果を公表させていただきます。

「日韓未来対話」の創設と「共同世論調査」の意義とは

 まず、私たち言論NPOとEAIについてご紹介させていただきます。私たち言論NPOとEAIは共通した点があります。それは、特定な利害から互いに独立で中立な存在であるということです。そして、昨年、アメリカの外交問題評議会(CFR)が世界の23カ国の有力シンクタンクを集めた会議、カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)を発足させました。その会議に、日本からは私たち言論NPOが、そして韓国からはEAIがメンバーとして参加しています。

 このCoCでのネットワークをきっかけに、言論NPOはEAIと協議を開始し、対話の力で日韓の課題にも取り組むことを決め、「日韓未来対話」という新しい民間対話の舞台が実現することになりました。現在、東アジアの地域のガバナンスが非常に不安定で、各国の排他的なナショナリズムが高まっています。そのような中で、日中韓の首脳会議も実現の目処が立たないなど、政府間の対話だけでは限界があると私たちは判断しました。こういう時こそ関係する様々な当事者、マルチステーク・ホルダーが集まり、課題について真剣に考える。また、可能な限り議論が公開されて各国の健全な輿論に支えられる運動を作っていく必要があるのだと思っています。

 そういった点について意見が一致し、今週の土曜日に「日韓未来対話」を発足させることになりました。その対話の中では、日本と韓国の国民がどのような基本的な認識を有し、互いを理解しているのか。そして、お互いの認識の背景にどういう問題があり、どうしたら解決の方向に向かうのか、そういったことについて今回発表する世論調査をベースに、

 日韓の有識者が語り、会場からの質問も受け付けながら、日韓の未来の糸口を作っていきたいと思っています。


日中韓の比較ができる共同世論調査

 さて、今回の調査は、日本と韓国で3月の末から4月15日まで、同じ設問で調査を行いました。ただ、麻生さんを含めた多数の国会議員による靖国参拝は4月21日ですから、その前に行われた調査であることはご承知おきいただければと思います。今回の調査のサンプル数は日本が1000人、韓国が1004人となっています。日本側は訪問留置回収法で、韓国側は対面式聴取法により全国的に行った調査結果です。

 また、同時に言論NPO及び東アジア研究院は、日韓の有識者へのアンケート調査を行い、日本は575人、韓国は393人から回答をいただきました。世論調査を有識者調査結果を比較することで、一般的な日本人・韓国人の認識を補完しようと考えています。

 なお、この世論調査の設問は、言論NPOが中国との間で毎年行っている設問とほぼ同じ形式になっています。ですから、日本と韓国と中国の3か国を比較し、互いの民意がわかるような仕組みにもなっています。今年の中国の世論調査は6月に行うことになっていますが、去年の中国での調査も踏まえながら、今回の調査結果を報告させていただきたいと思います。


国民間の直接交流の度合いと情報源

 調査ではまず、日本と韓国のお互いの直接交流の度合いと、相手国に対する認識を両国民はどういう形で得ているのか、情報源を探りました。ここで私たちが注目するのは直接的な交流についてです。つまり、「渡航経験があるのか」、「少しでも対話をする友人や知人が相手国にいるのか」などです。こうした直接交流が少なければ自国の「メディア報道」などから間接的に情報を得るしか、相手を判断できません。

 結論から言いますと、「相手国への渡航経験」は日韓両国民の2割程度となり、両国とも全く同じようなレベルでした。また、相手国に「多少話をする知り合いがいる」という点でみると、日本が約2割、韓国が1割となり、まだまだ少ない状況です。また、「渡航経験がある」と回答した人達も、その8割以上が旅行となっています。

 ちなみに、昨年の中国の調査では、旅行の他にビジネスによる短期の駐在という人も5割ほどいました。

 以上のようなことから、日韓間において、直接交流は十分に発展していないという結果となりました。そうなると、多くの人は間接的な情報に依存するしかありません。そこで、「相手国の情報をどこから得ているのか」では、両国民の9割が「自国のニュースメディア」と回答しました。その中で「テレビ」を挙げたのが日本で8割、韓国で7割となり、自国のメディアの中でも「テレビ」から情報を得ている人たちが圧倒的です。ただ、韓国においては、2割がインターネットと回答しており、特に30歳未満の人はその約4割が、自国のインターネットから情報を得ています。

 その他、日本では「韓国のテレビドラマ・情報番組、映画作品」を選ぶ人も2割程度おり、近年の韓流ブームによる韓国が制作したコンテンツが韓国に対する認識に影響を与えていることがわかります。一方、韓国のでは「家族や知人、友人」の話を情報源と判断する人が3割を超えています。このような国民間の直接交流の経験、情報源の現状を頭に入れてもらいながら、正論調査の結果を見て頂けたらと思います。


この1年間で、相手国に対する印象が悪化

 では、「相手国に対する印象」ですが、韓国に「良い印象」を持っている日本人は3割程度しかおらず、日本に「良い印象」を持っている韓国人は1割程度しかいません。逆に韓国に対して「良くない印象」を持っている日本人が4割程度、一方の、韓国人では8割程度が日本に対して「良くない印象」を持っているという結果となりました。

 次に、この1年間で相手国に対しての印象がどう変わったのかを尋ねたところ、両国民の4割が、この1年間で相手国に対して印象が「悪化した」と答えています。では、なぜ印象が悪化したのか。韓国では「竹島・独島を巡る紛争」と「歴史認識の問題」を挙げる人が8割近くと圧倒的多数をしめています。一方、日本は、韓国が「歴史問題などで日本を批判するから」との回答が6割、それから「竹島を巡る対立が続いているから」との回答が半数と続きます。この他、日本人は韓国人が非常に感情的で、スポーツに政治問題を持ち込むなどの回答も一定程度あり、日本人は現状の韓国人の行動に対してマイナスイメージを持っていることが読み取れます。

 一方で、「良い印象」を持っている人にもその理由を尋ねたところ、韓国人は「日本人は親切で、まじめだから」が6割近くで最も多く、「生活レベルの高い先進国だから」が46.7%で続きます。これに対して日本人は、「韓国のドラマや音楽など、韓国の文化に関心があるから」との回答が5割を超えて最も多く、「韓国人はまじめで努力家で積極的に働くから」が続きます。同じ「民主主義の国だから」はそれぞれ二割程度で、印象にそう大きく寄与していません。


日韓間では、基礎的理解も十分にできていない

 次に、相手国に対する基本的な理解について見ていきたいと思います。「相手国について思い浮かべるものは」と聞くと、普通だとその国の料理や自然、文化的なものを思い浮かべることが多いと思います。しかし、韓国人では「竹島・独島問題」や「従軍慰安婦問題」を挙げる人が圧倒的に多く、日本人に対する基礎的理解についても、領土や歴史認識の問題が大きく影響していることがわかります。この傾向は日本でも同様で、日本人は「韓国料理」を挙げる人が6割近くと一番多いのですが、その後に「竹島・独島問題」が続きます。

 次に、日本は過去よりも比較的近年の出来事を理解しており、「今」の韓国を見て韓国を評価する傾向があるということです。一方の韓国は戦争時の印象や認識が強く「過去」から日本を見ているということがわかります。例えば、第二次世界大戦前・大戦中の出来事を知っているが、「日本の民主党政権交代」を知っているのは13.5%しかいません。この傾向は、お互いの政治家についても同様で、韓国人は「小泉純一郎」や「安倍晋三」については結構知っていますが、その他は1割程度という結果です。

 そして、私たちも調査結果を見て驚いたのは、今の日本、韓国の社会や政治体制のあり方についての両国民の認識です。今の日本を「軍国主義」だと思っている韓国人が50.3%と半数を超え、最も多い結果となりました。日本を「平和主義」や「国際協調主義」と見る韓国人はそれぞれ1割にも届きません。これに対して、今の韓国について日本人の4割が「民族主義」と回答し、「軍国主義」が続きます。感情的な対立が相手国への基本的な理解にも深刻な影響を与えているということが分かります。

 では日韓関係を見た場合に、全てにおいてネガティブなのかというと、そうではない点もありました。それは、国民性に対する認識についてです。私たちが行っている中国との世論調査では、毎年ネガティブな傾向や理解が浮き彫りになるのですが、日韓調査では、日本人は韓国人の国民性について、10項目の内8項目が「どちらともいえない」と回答し、判断できないでいるという結果でした。韓国人も5項目で、「どちらともいえない」が最も多く、他の5項目では、日本人は「勤勉」であり、「やさしい、親切」だと判断しています。歴史認識や竹島・独島問題でお互いの感情が悪化していますが、それを取り除けば相手に対して尊重の見方もできる、ということがわかる結果となっています。


日韓関係の評価もかなり悪化している

 次に、日韓関係の現在と将来に対する認識について、現在の日韓関係を「悪い」と見ている日本人は半数を超えており、韓国人の約7割が「悪い」と思っています。そして、日本人の約7割、韓国人の半数を超える人がこの1年間で「日韓関係は悪化した」と判断しています。さらに今後の日韓関係はどうなるか、との問いに対しては、「今の厳しいまま変わらない」と回答する韓国人が6割、日本人は3割を超えています。更に韓国は「今の厳しいまま変わらない」と回答した6割の他に、3割が「さらに悪くなる」と見ており、どちらかといえば韓国が日韓関係の将来に対して悲観的な見方をしていることがわかります。

 次に「今後の日韓関係の発展を妨げる問題」として、日韓両国民の8割以上が「竹島・独島問題」で問題だと指摘し、意見が一致しています。それ以外は意見が分かれており、日本人は「韓国国民の反日感情」が55.1%で半数となり、次いで「韓国の歴史認識と歴史教育」が33.8%、「韓国メディアの反日的な報道」が25.3%と続きます。韓国人で2番目に多かったのは、「日本の歴史認識と歴史教育」との回答が6割を超えており、「日本の政治家の反韓感情を煽動する発言」が31.1%で続き、今まで申し上げてきた認識とほとんど同じ結果となりました。この結果がミラー効果になり、お互いの感情が増幅されていくことが見えてきます。しかし、両国民の7割が「両国関係は重要」だと考えており、日韓関係の重要性については両国民間で認識が一致しています。


韓国人は日本よりも中国を重要視している

 こうした日韓関係の重要性について、対中関係との比較の中で判断を更に求めると、両国とも「どちらとの関係も重要だ」という考えが半数を超えていますが、日本人で「対中関係がより重要」という回答は20.0%、「日韓関係がより重要」という回答が13.9%となっています。これに対して、韓国人の35.8%が「対中関係の方がより重要だ」と回答し、「韓日関係がより重要」という回答は9.3%と1割にも届きません。また、親近感について、日本人は半数近くの人が韓国に親近感を持っており、中国に親近感を持っている人は5.9%に過ぎません。これに対して、「日本に親近感を感じる」韓国人は1割程度で、3割以上が「中国により親近感」を感じています。この傾向は最近の日韓関係の状況を反映しているのだと思いますが、韓国では日韓関係の重要さに加えて、国民レベルでの親近感についても日本より中国が重視されている傾向が明らかになりました。


両国民とも日韓首脳会談、民間の交流は重要視

 現在、日中韓の首脳会談も開かれていない状況が続いていますが、日韓両国民の7割以上が日韓の首脳会談は必要だと考えています。では、首脳会談で何を議論すればよいのかを尋ねたところ、一番多いのが「竹島・独島問題」で、日本人の4割、韓国人の8割が議題に上げるべきだと回答しています。続いて、日本人は「北朝鮮の核問題」を議論するべきだと回答していますが、韓国人は「北朝鮮の核問題」よりも「日韓の歴史問題・慰安婦問題」を挙げています。ここでも、歴史認識の問題や竹島・独島の問題を協議すべきだ、という傾向が出ています。また、民間レベルでの交流については、両国の半数以上が「相手国を訪ねたい」と回答しています。去年の中国との世論調査では5割以上がお互いに「行きたくない」と言っていますから、互いに交流をしたいという意識はあり、互いの国の7割以上が「民間レベルの交流を重要だ」と考えています。


日韓両国ともに、歴史認識問題の解決を困難視

 歴史民第については、韓国人は「歴史認識問題が解決しなければ、両国関係は発展しない」との回答が4割以上となり、歴史問題の解決が重要だと考えています。これに対して日本人は「両国関係が発展しても、歴史問題を解決することは困難」が最も多く3割を超え、日韓両国共に、歴史認識問題の解決の困難性を指摘しています。この点について、中国人に対する世論踏査では、毎年「両国関係が発展するにつれて、歴史問題は徐々に解決する」との楽観的な回答が半数程度あるのとは異なる傾向となっています。

 次に、首相の靖国参拝問題に関しては、日本は「参拝しても構わない」、「私人としての立場なら構わない」が7割あり、韓国は公私とも6割が「参拝すべきではない」との回答で韓国側がより反対の傾向が強い結果となりました。


世界・アジアや日韓両国の将来に関する両国民の意識

 次に、両国間のみならず、世界の状況を含めた安全保障の問題について尋ねました。今後、世界をリードする国について、日韓両国民共に「アメリカ」との回答が最も多い結果となりました。しかし、韓国では「中国」との回答も「アメリカ」と同程度存在し、G2が今後の世界政治を主導するという認識が非常に高くなっています。次に、今後の経済関係に関しては、韓国の経済発展について日本人の半数近くが「メリット」だと見ている一方で、韓国人の半数近くが日本の経済発展は「脅威」だと見ており、互いの経済発展に関する見方にかなりの違いがみられます。朝鮮半島の10年後については、両国民ともに10年後の朝鮮半島について、「予想はできない」という見方が約4割と最も多い回答となっています。しかし、日本人は10年後も「現状のまま」、「対立が激化」するとの厳しい見方が合わせて4割あります。これに対して韓国人は、「南北の統一に向けた動きが始まる」という見方が2割あり、他の悲観的な見方よりも相対的に多くなっています。


領土紛争と東アジアの軍事・安全保障について

 続いて、両国民が領土問題をどう認識しているのかについて見ていきます。日本人の7割、韓国人の8割が、両国間に領土をめぐる「紛争が存在している」と認識しており、日本人の6割は「国際司法裁判所への提訴」をすべきとの回答が最も多くなっています。一方、韓国人で最も多かったのは、「実効支配を強化する」が4割弱、「軍事的な対応も辞さない」という見方も2割あります。ただ、韓国の国民にも3割近くが「平和的な解決を追求」したいと回答し、日本の国際司法裁判所提訴について「同意するべき」との回答も15.1%あるなど、多様な見方があることが分かりました。

 軍事的脅威を感じる国については、両国とも8割程度の人が「北朝鮮」だと回答しています。2番目以降は意見が分かれており、韓国人の4割が「中国」と並んで「日本」を脅威だと考えています。これに対して、日本人は「北朝鮮」に続いて「中国」が6割となり、「韓国」に対して脅威を持っている人は1割程度であり、見方が食い違ってきています。

 最後に、尖閣周辺で日中間に軍事衝突があり得るのかを尋ねたところ、韓国人の約7割が「数年以内」、あるいは「将来」、日中の軍事紛争が起こる可能性があると回答しています。一方、日本人の4割が「起こらない」と見るなど、ここでも認識の違いが出ています。


メディア報道・インターネット世論に関する意識

 冒頭、両国民は互いの認識を得るためにはメディアの報道を活用している、と指摘しましたが、では、メディア報道を両国民はどう見ているのか、です。日韓両国民の半数近くが「相手国の報道や言論が実質的に規制されている」と認識しています。ただ、韓国人に関しては、日本の報道に「自由がある」という見方も同数あり、意見が分かれています。

 次に「自国のニュースメディアが日韓問題の報道に関して公平で客観的か」との問いには、日本人は「どちらともいえない」が最も多く、「客観的で公平だ」と言い切っているのは3割に過ぎません。逆に、韓国人は4割が「客観的で公平な報道をしていない」と見ています。

 最後に、「インターネットでの議論が両国の適切な民意を反映しているのか」との問いに対して、「適切な民意を反映している」と思っている日本人はわずか1割程度しかおらず、韓国では「反映している」と「反映してない」がそれぞれ4割で意見が分かれている結果となりました。

 以上が、私からの報告となります。今回の調査結果に表れた国民感情は、両国間の外交政策に強い影響を与えており、こうした問題を克服するには、政府外交だけでは限界があり、民間や市民レベルの幅広い取り組みが必要だと思います。そこには政府だけではなく、様々な分野での圧倒的な対話不足があるからだと考えます。こうした調査結果をどう両国の有識者や市民が考えるのか、という問題意識から5月11日の対話を始めたいと考えています。

調査結果詳細は こちら をご覧ください。

 

 言論NPOと韓国のシンクタンクである東アジア研究院(以下、EAI)によって、新しい日韓の民間の対話のチャネルが作られることになりました。今日は、その対話に基づく世論調査の結果を公表させていただきます。