分科会報告 : 【 中日関係とアジアの未来 】

2007年8月29日

p_070829_20.jpg【報告者】
周牧之(東京経済大学教授、マサチューセッツ工科大学客員教授)
ジョウ・ムゥジ

1963年中国湖南省生まれ。中国湖南大学電気工学部で学士号を取得、東京経済大学大学院経済学研究科で経済博士号を取得。1985年中華人民共和国機械工業部(省)に入省。1991年-1994年日本の開発構想研究所研究員、1995年-2002年財団法人国際開発センター研究員、主任研究員を歴任。主著書に『メカトロニクス革命と新国際分業─現代世界経済におけるアジア工業化』などがある。

【 中日関係とアジアの未来 】

 ありがとうございます。日本は戦後世界の第2位の経済大国としてアジアの70年代のNIEsの工業化を実現し、その後中国は30年近い高度成長を実現しました。アジア各国の発展により、アジアは世界で最も活力に富む地域、世界の25%のGDPを占める地域になりました。そう遠くないうちにアジアの GDPは世界の半分近くになるでしょう。

 世界の政治経済の中心はアジアに移りつつあります。この分科会ではアジアの世紀について語られました。その特徴は以下の通りです。

一、アジア域内の分業協力体制は広範に進化し、強化されつつもあるということです。域内貿易比率は数年前の34%から2005年の55%になりました。中国はアメリカを抜いて日本の最大の貿易パートナーになりました。アジアは今、大分業・大協力、相互依存関係にあると言えるでしょう。世界のメディアの中に、中国が世界の工場であると言う声もありますが、このような緊密協力にあるアジアこそ世界の工場ではないでしょうか。

二、世界のマルチ、バイの関係構築は始まったばかりですから、国民感情に係わる問題が多いことです。未解決の懸案も多いです。アジアの協力メカニズムは、今のアジアの現状に対応していません。宮本大使は、「アジアはまだ'アジアの時代'の到来に向けた心の準備はできていない」とおっしゃいました。私もそう思います。このような問題に対応する為に、昨年このフォーラムでアジアの未来に関する分科会を設けました。

三、昨年の成功を踏まえ、今年は場所を北京大学に移し、中国の将来を担う中国の大学生と分科会を行ったことです。この分科会は将来に関する、最も早期の議論のプラットフォームになると思います。


 全体的な流れについてですが、第1パートはパネリストの発言が行われ、まず趙啓正先生よりEUと比べたアジアの地域統合のスピード不足、各国の認識不足、中日関係の'アジアの未来'を決定する要因としての中日の責任の重さが指摘されました。岡田克也氏からは排他的なナショナリズムに対する懸念が示されました。また、日本の戦後民主国家としての発展、中日関係に対する努力についても言及されました。呉建民氏からはアジア金融危機以後ASEAN+3の発展に関する紹介があり、宮本雄二大使からはアジア協力メカニズムの構築はできる所からしようという提案がなされました。王英凡氏からは、朝鮮半島問題解決の為の六者会談を東アジアの平和解決メカニズムにすべきとの意見がありました。他にも色々ありましたが、時間がありませんので割愛いたします。

 第2パートでは、大学生諸君との交流が行われました。200人を超える大学生からパネリストへ鋭い質問が出されました。日本の政治家に対し、中日関係に一番影響を与え得るのは、歴史問題なのか体制の違いなのかといった問題や、中国に対しては日本の常任理事国入りをなぜ支援しないのかという問題などがありました。また、日本に対しては日本について各政党の対中政策に食い違いがあるとすれば何かという鋭い質問もありました。これらの質問に対し、中日パネリストにより知恵に富む簡潔な回答がされました。一部の質問を巡っては双方の意見の対立も見られましたが、このような議論は中国学生諸君に現場で中国・日本のオピニオンリーダー、政府関係者、政治家の考えを知る機会を与えたのみならず、逆に中国・日本のオピニオンリーダー、政府関係者、政治家が中国学生諸君の考えを理解する機会となり、大変有意義でした。分科会終了後はなお、私に対し時間が足りないという意見も多くありました。

 「アジアの世紀」について、今回の分科会において多くのパネリストから、アジアは世界において大きな経済的比重を占めるようになった、という発言がありました。特殊な時代だとの意見も見られましたが、個人的にはこれは特殊ではないと思います。アヘン戦争以前、アジアは世界のGDPの50%を占めており、諸国の交流は活発でした。もしアジアの協力が歴史的になければ、中国と日本が同じ文化を持つことはなかったでしょう。我々は自信を持つべきです。


 私は分科会を通して、以下の感想を持ちました。

一、学生からの質問のクオリティーが高いことです。中日問題、アジアの問題に関する関心度が高く、知識も豊富であると思いました。

二、質問が活発に行われたことは、中国の若者の活力を示していると感じました。

三、会場から質問をした人は北京大学以外の人達が多かったことです。他大学からの熱心な参加者が多かったことは、北京大学の開放性を示しているでしょう。

 最後に、2つのキーワードで締めくくります。それは、「バイタリティ」と「開放性」です。この2つのキーワードは、今回のフォーラム、今日の中国、そしてアジアの代表的特徴を表すものでしょう。

 以上です。


担当:小川京子、尾藤健太郎
編集:渡辺佑樹