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【ファイナンス】 ファイナンスライブラリー『言論NPO 2003年 vol.1』

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2003/3月号 ファイナンス 評者:松田学

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 経済官庁に奉職する者なら誰もが、日本のメディアや論壇で行われている政策論議に物足りなさを感じたことが多少なりともあるのではないか。建設的で責任ある質の高い議論を、そんな思いに応える雑誌が一年前に現れた。言論NPOという特定非営利活動法人がほぼ2ヶ月に一度発行する「言論NPO」である。

この会員制組織のNPOは、「言論不況からの訣別」を掲げ、日本を立て直す政策を生む議論の場を形成しようと、かつて「論争東洋経済」誌の編集長だった工藤泰志氏を代表として一昨年秋に活動を開始した。以後、インターネットを通じて双方向性を確保しつつ議論を発信するウェブ論壇(http://www.genron-npo.net)や、有識者を集め政策提言を目指す政策フォーラムなど、本格的な議論形成の活動を展開し、これらと連動しながら各界の論客たちの議論を集大成するクォリティー誌として本年1月号で既に6号目を発行している。

今号のタイトルは「日本のデフレと不良債権問題」である。そこでは、デフレという現象をどう捉えそれにどう対処していけばいいのかという工藤氏の問いかけに、黒田前財務官や内閣府の岩田一政氏がデフレは金融的現象との立場から論を寄せ、これに否定的な立場からは山口日銀副総裁が金融政策よりも需給ギャップの解消を優先すべきとの論を展開する。島田晴雄氏はマクロよりもミクロの対策、民間部門の挑戦の重要性を指摘し、榊原元財務官は現在のデフレは歴史的で世界的な構造転換を主因とするものと主張する。ここでは、学者的な論評よりも、政策当事者にも発言を促して、現下のデフレ論議の混乱を整理し、今の経済運営に必要な認識の共有化と政策の統一を希求しようとする編集者の真摯な態度が貫かれている。

片や、不良債権と産業再生のテーマについても、学者やエコノミスト、官僚や第一線の経営者や実務家たちに次々と発言を求め、今や、政府の選択肢は、民間の自律調整か、公的関与の強化による経済手術の断行かの二者択一であるにも関わらず、この点での政策の曖昧さが管理経済を長引かせ日本の衰退を加速させるとの総括が行われる。道路公団改革問題についても、「中途半端な民営化議論」を超えた日本の新しいシステム設計への決断を迫っている。

読者は、マクロ政策の論点がここで一旦整理され、今欠けている次の議論として、日本の将来選択と具体的な産業再生の姿へと自らの思考が進んでいることに気づくだろう。それに応える議論を次号で展開することが宣言される。個々の議論への賛否はともかく、本誌には政策論争の醍醐味で読者を惹きつける魅力がある。

さて、この雑誌を支えるのは、言論NPOが基盤とする論者のネットワークである。その設立パーティーに経済界、官界、言論界、学界等、各界で日本を代表する人々が集い、首相や野党党首までが臨席する姿を、某誌は「知的脱藩」と評したが、目指すモデルは、米国の各界のインテリたちが個人の資格で参加し国家戦略の形成に寄与してきたとされる「外交問題評議会」だとも言われる。賛同者たちは、このNPOに、日本の知的コラボレーションに向けた新しい流れの触媒役を期待しているようだ。その背景には、マスコミへの疑問だけでなく、従来の枠組みでは対応不可能な日本の現状に対する危機感の共有があると関係者は指摘する。

だが、言論NPOの真骨頂は、この雑誌にも見られるようなエディターとしての真摯な議論作りの姿勢にあると思われる。当事者たちの発言を大切に扱い、単に編集するのではなく、彼らと時に激しく論争しながら新たな議論を創出してクォリティーを高めていく営みが、発言者たちの信頼を勝ち得てきたのであろう。

コラボレーションへの流れは、若手や中堅の間にも見られるようだ。NPOや勉強会など組織を超えた横のつながりを求める動きが各界で胎動しているが、自らの業界や組織の再生を願って、各組織の中核で活躍する実務家たちがそれを模索する姿は興味深い動きといえる。

劇作家で評論家の山崎正和氏は、米国でもかつての大英帝国でも、各界の知性が個人として集い一国の戦略などを議論する自由でインフォーマルな場が機能してきたことを指摘している。55年体制が崩壊し、新たな協働のあり方を見出せていない日本の真の問題は、経済大国として各分野に蓄積されているはずの様々なストック(知、資産、技術等のストック)の動員システムの混乱にあるという見方もある。確かに、電子情報技術が産業革命以来の世界経済のパラダイムシフトをもたらす中で、日本の活路は知の創出力の基軸からしか開けないとすれば、今の経済低迷を打開できるのは、将来に向けて新しいフロンティアを開く構想力や挑戦、思考の自立性といったものなのかも知れない。

そのために、「国や組織に依存せず自らの夢を持ちそれに向けて挑戦する自立的個人と、そうした挑戦者を支援する国や社会への変革」を標榜する言論NPOが、知のネットワーク形成を通じてコラボレーションを進め、各界の意識の高い人々に思考の糧を提供し、議論への参画を促すという挑戦を始めたのだと解される。

その営みの中で、雑誌「言論NPO」は、これまでも様々な特集で、金融再生のあり方や、税制改革の戦略化を模索したり、日本の企業経営のガバナンスなどを問うてきた。今号の特集も併せ、いずれも財務省職員なら興味を覚える内容といえよう。次号は、日本のアジア戦略の議論を切り口に日本の将来像を模索する論争が予定されていると聞く。まだ書店販売の部数は少ないが、とにかく、前記のホームページか下記までアクセスし、まずはこの雑誌を手に入れて見ていただくことをお勧めしたい。(TEL: 03-6229-2818 e-mail: info@genron-npo.net

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