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地球規模課題10分野への国際協力評価
Report Card on International Cooperation to Top Ten Global Challenges2019-2020

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地球規模課題10分野への国際協力評価
2019年全体評価はD(やや後退)

総論

 2019年の地球規模課題への国際社会の取り組みには、米中対立の深刻化と自国第一主義の動きが、様々な形でマイナスの影響を与えている。トランプ政権はパリ協定からの脱退を表明し、開発援助の分野にも地政学的な対立の影響が色濃く出ている。国際貿易では、ルールに基づく自由な国際貿易の最も包括的な枠組みであるWTOの紛争処理メカニズムが機能停止し、新しい貿易のルール作りに向けた交渉でも合意を形成することが難しい膠着状態からほとんど進展がない。また北朝鮮非核化に向けた米朝交渉には2019年、その行方に世界から大きな期待が集まったが、交渉の行き詰まりに北朝鮮は強く反発しており、再び挑発行為にでることが懸念されている。こうした状況から、国際課題の10分野のうち、核拡散防止や気候変動など6分野では、国際協力の状況が前年よりも後退したという評価をするに至っている。

 国際テロや、リビア、シリア、イエメンなどでの国内紛争では、基本的な対立構造が劇的な改善をするという状況には至っておらず、様々な問題を抱えながら不安定な局面が続いている。サイバーセキュリティでは、サイバー攻撃が日増しに増える中で、それを抑止し防止するための規範作りに向け国連における議論が開始されることは決まったが、そのプロセスがサイバーセキュリティにおける規範の強化やその広がり、そしてサイバー攻撃を実効的に阻止するような枠組みにまで至るかということになると、まだ展望を見出すことは難しい。そうしたことから国際テロや国内暴力、サイバーセキュリティでは、厳しい状況が2019年においても変わらないと判断した。

 唯一プラスの評価になったのはグローバルヘルスの問題である。これはコンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱の流行に対するWHOの対応が適切に行われたかという評価に基づくものであり、テドロスWHO事務局長新体制の下で、2014年のエボラ出血熱流行時のWHOの対応のまずさが克服されており、紛争地域というコンゴ民主共和国の状況からエボラ出血熱収束に向けた取り組みは困難に直面したものの、対応としてはこれまでとは違う積極的な動きになったと判断した。現在、中国において新型コロナウイルスによる肺炎が急速に拡大しているが、この問題は2019年12月末に発覚し、WTOのルールに基づいて各国に通告されたのが2020年1月であったことから、これは2020年の課題として2019年の評価対象としては見送ることとした。

 米中対立などの地政学的な対立が地球規模課題への国際社会の取り組みに大きな影響を与えた2019年にあって、グローバルヘルスや気候変動は、国境を越えて多くの人々が直接その利害にさらされるような課題であり、こうした問題に解決に向けた国際的な動きがどう機能したかという視点からの評価が唯一可能だった分野であった。こうした国境を越え多くの人が利害を共有する国際的な課題の解決に向けた国際社会の取り組みが、地政学的な対立を乗り越えることを私たちは強く期待するが、現状ではまだそうした共通の危機感が、対立を乗り越えるような状況を作り上げているわけではない。そのため、2019年の10の国際課題における評価は我々が過去4年間にわたって行った評価と比較しても非常に厳しいものとなり、地球規模課題への国際社会の取り組みは後退したという評価を行うこととなった。


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地球規模課題10分野への国際協力評価
2019年において前進したのか

 2019年において、10分野の地球規模課題の中で最も点数が高いのは、「B=一程度前進した」の評価を受けた「グローバルヘルスの促進」であった。一方、通商をはじめとした米中対立が色濃く出た「国際貿易」や「国際経済システム」などは低い評価となった。北朝鮮の非核化交渉の停滞やイランが核合意での履行義務を段階的に停止した「核拡散防止」の分野も低い評価となった。

2019年における進展
総合評価
(参照)有識者 
アンケート結果
B 一程度前進した
B
C 変わらない
C
C 変わらない
D
C 変わらない
C
D やや後退した
C
D やや後退した
D
D やや後退した
D
D やや後退した
D
D やや後退した
C
D やや後退した
D


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地球規模課題10分野への国際協力評価
2020年における優先課題トップ10

 地球規模課題10分野の中で、2020年において最も優先されるべき課題は「核拡散防止」となり、これに近年世界中で異常気象が多発し脅威が増している「気候変動」問題が続いた。また、2019年により激化した米中対立を受けて、「国際経済システム」や「国際貿易」の優先度も増している。さらに、2020年1月の一か月間で一気に中国・武漢から広がった新型肺炎の脅威から、「グローバルヘルス」の分野の優先度も上昇した。

2020年における優先度
優先度の高さ
(参照)有識者 
アンケート結果
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10
10

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地球規模課題10分野への国際協力評価
2020年に解決に向かう可能性

 2020年において、「一程度前進、あるいは前進する」と評価された分野はゼロとなった。地政学的対立が影響する通商や核拡散防止など分野は引き続き評価が低くなっている。そのほかの分野は、一部の進展が見込まれるものの、多国間で合意を作り、実行・継続することが難しい面が多いため、「現状のまま変わらない」との評価になった。

 気候変動の分野は、異常気象の拡大や平均気温上昇など状況の急速な悪化に対し国連方式の全会一致の意思統一が時間的に間に合わず、たとえ温室効果ガスの対策が進んだとしてもゴールがさらに遠のくという問題が起こり、前進する見通しが下がっている。

2020年において進展する可能性
総合評価
(参照)有識者 
アンケート結果
C 現状のまま変わらない
B
C 現状のまま変わらない
B
C 現状のまま変わらない
B
C 現状のまま変わらない
B
C 現状のまま変わらない
B
C 現状のまま変わらない
C
C 現状のまま変わらない
C
C 現状のまま変わらない
C
D 後退する
C-
D 後退する
C


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Report Card on International Cooperation
地球規模課題10分野への国際協力評価とは

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 言論NPOは、地球規模課題の解決や規範に基づく世界秩序やルールの形成で、日本外交がリーダーシップを効果的に発揮できる有力な議論と発信の舞台を日本に作り出すことを目指しています。そして、世界の課題に対する日本の提案力を高め、国際世論への影響力や日本国民の外交意識を向上させることに寄与したいと考えます。

 「地球規模課題10分野への国際協力評価」はこの取り組みの一環として、2015年より米外交問題評議会(CFR)やチャタムハウスをはじめとした欧米、アジア、ラテンアメリカ、アフリカ、中東の世界25ヵ国のトップシンクタンクネットワーク「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)」との共同で日本を代表し実施してきた評価です。貿易・国際経済、核不拡散問題、サイバー、気候変動、グローバルヘルスなどの10分野の地球規模課題に対する国際協力について過去一年間の進展や翌年における優先順位、解決に向かう可能性について評価してきました。言論NPOが実施した評価・見解は、アメリカ外交問題評議会のホームーページに毎年取り上げられ、国際課題に対する日本の意見が注目されてきました。

 2020年は、この取り組みをより強化し、まず日本が独自で評価・発表行います。評価結果は、主に、①日本国内の約30名を超える専門家や政府関係者との会議、並びに、②言論NPOに参加する有識者2,000氏へのアンケート結果(回答者:307名)を基に決定されました。


過去の評価結果(2015~2019)




地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:D(やや後退した)

 2019年の核不拡散の評価をするにあたって、言論NPOがその対象としたのは、「北朝鮮」と「イラン」である。北朝鮮に関しては、首脳会談の決裂と、その後の北朝鮮の態度硬化によって、歴史的な米朝会談によって期待が高まった2018年からは「やや後退している」状況である。「イラン」についても、米国の経済制裁に対抗してイランが核合意の履行義務を段階的に停止しており、こちらも「やや後退している」といえる。
 核軍備管理の評価に関しては、INF全廃条約が失効し、新STARTの延長に向けた協議が進んでいないことなどから「やや後退している」と判断した。
 以上のことから、2019年全体の評価は「D(やや後退している)」とした。

【2020年 進展に対する期待】:D(やや後退する)

 2020年の核不拡散における期待としては、北朝鮮に関しては、金委員長の態度硬化と、トランプ大統領の関心低下などから、状況は「やや後退する」ことになるとみられる。イランについても、今後イランで反米色が強まる可能性があり、また米国も制裁の手を緩める見込みはないことから、ここでも状況は「やや後退する」と判断した。
 2020年の核軍備管理に対する期待に関しては、INF失効後、米国はアジア太平洋地域への中距離ミサイルの配備を検討しており、その動向によっては中距離ミサイルに関する軍備管理の仕組みがない状況の下、北東アジアの安全保障環境が悪化する懸念がある。また、核兵器禁止条約の(TPNW)の批准国が増加する一方で、核兵器不拡散条約(NPT)に関しては、その在り方をめぐって4月下旬から予定されている運用検討会議では激しい議論が展開されることが予想される。こうしたことから、核軍備管理に関しても改善に向けた展望は描けず、むしろ「やや後退する」というリスクを我々は重視した。
 以上のことから、全体的な2020年の進展に対する期待は「D(やや後退する)」とした。

地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:D(やや後退した)

 2019年の評価にあたって、言論NPOが対象としたのは、「アフガニスタン」、「イエメン」、「シリア」、「リビア」の4カ国である。このうち、戦闘が減少傾向にあるイエメンに関しては、「一定程度前進した」と評価したが、その他の3カ国に関しては、戦闘の継続と、それに伴う死者や避難民の増加を鑑み、状況は悪いまま「変わらない」か、「後退」と判断した。とりわけ、リビアに関しては、地域の大国による代理戦争の構図となっていたところに、さらにロシアやトルコなどプレーヤーの増加によって混迷を極めているため、最も低い評価を下した。
 以上のことから、2019年全体の評価は「D(やや後退している)」とした。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 2020年における期待に関しては、4カ国いずれも「変わらない」と判断した。和平プロセスが動き始めているところであっても、いずれも対立陣営間の相互不信は著しく、容易に交渉は進まない見込みであることをその理由とする。
 以上のことから、全体的な2020年の進展に対する期待は「C(変わらない)」とした。


地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:C(変わらない)

 2019年の評価にあたって、言論NPOが対象としたのは、「ウクライナ」、「南シナ海」、「東シナ海」、「カシミール」の4つの問題である。このうち、和平に向けた合意がなされ、ゼレンスキー、プーチン両首脳が初会談を行ったウクライナ問題に関しては、「一定程度前進した」と評価したが、中国の活発な活動が続いている南シナ海、東シナ海に関しては、昨年から悪い状態のまま「変わらない」と判断した。一方、カシミールについては、インド軍機が48年ぶりにパキスタン領内に侵入して空爆をするなど緊張が高まっており、「やや後退している」と判断した。
 以上のことから、2019年全体の評価は「C(変わらない)」とした。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 2020年における期待に関しては、ウクライナでは、和平プロセスを進める上での課題はまだまだ多く、現状から後退はしないとしても進展も見込めないため「変わらない」と判断した。南シナ海、東シナ海でも、情勢悪化はしないとみられるが、中国の行動も大きくは変わらないことが予想され、「変わらない」とした。一方、カシミールでは、パキスタン側からのテロと、それに対するインドの反撃が、それぞれ昨年よりも大規模化する懸念があり、対立解消の目途も立たないため「やや後退する」と判断した。
 以上のことから、全体的な2020年の進展に対する期待は「C(変わらない)」とした。


地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:D(やや後退した)

 米中貿易対立や米EUなどの対立の先行きが見通せない中、世界の物品貿易量の伸び率は減少しており、今後も低下する恐れがある。また、WTOの上級委員会の機能は実質的に停止しておりWTO体制自体が危機に直面しており、世界の自由化を支える仕組みは大きく後退した。一方、CPTPPや日EUのEPA、またRCEPが大筋合意する等、地域メガFTAは進んだものの、国際貿易の拡大という点では後退していると判断した。

【2020年 進展に対する期待】:D(やや後退した)

 20年1月14日に日米欧の三極貿易担当相が通商のルールや世界経済を歪める産業補助金の規制強化などを柱としたWTOの新ルールに関する素案を発表したものの、中国を含めた合意は極めて難しく、紛争処理についても6月のWTO閣僚会議での合意は困難と考える。経済における自由主義や多国間主義を守ろうとする意識は多くの国が共有しているが、G7やG20においても合意を作ること自体が難しくなっており、アメリカ大統領選を控えた今年は、大統領選挙の行く末を見守る状態となっており、少なくとも2019年に後退した局面が改善されるきっかけにはならない。


地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:C(変わらない)

 2018年現在、全世界でのテロの件数は9,607件、死者数は22,987人を超え、1万件前後で高止まりしているのが現状。テロリストの「主体」という視点で見ると、現在の大きなテロを起こす主体は組織に属さず一人で長い期間準備をして大事件を起こす初犯の「ローンウルフ」が大半。インターネットやSNSを使い、多数の見ず知らずの人と情報交換や交流ができるため、過激化するのを防ぐための有力な対抗策は現時点では存在しない。さらに安保理決議などによって国際社会全体でテロ組織に対する資産凍結などの資金対策、テロリスト等の犯罪者情報の提供・交換、主入国管理体制の強化などの対策は行われてきており、テロ対策はある程度進展しているものの、まだ十分とはいえない。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 ISILの解体後、イスラム過激派は各国、地域に分散してテロの端緒が把握しにくくなっている。現在のテロ対策は、手法や武器を規制する対処療法に移ってきている。各国の捜査機関や諜報機関の間でテロリストの情報は共有されていたものの、一般人の中からもそうしたテロ行為を行う人たちが出る危険性がこれまで以上に高くなってきている。個人情報や自由を制限し、監視をどこまで行うか、という問題について議論し、社会としての合意を行う段階にきていると考えるが、そうした議論は先送りされており、2020年に踏み込んだ取り組みがなされることは期待できない。


地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:B(一定程度前進した)

 2019年、グローバルヘルス分野で最も重要な世界的な課題は、コンゴ民主共和国で発生したエボラ出血熱への対応であったが、前回2014年の西アフリカでの発生時の対応とは異なる判断をしている。まず、WHOの対応の問題である。2017年よりテドロス新事務局長新体制の下、WHOが緊急時に迅速に対応できる体制と資金を拡充し、緊急時のレスポンスの強化を図ってきた。そのため、現在何とか感染の広がりは抑えており、この点は前進と判断できる。一方で、コンゴ民主共和国含め紛争地や国家ガバナンスが欠如している脆弱国家での感染症への対応という面では引き続き課題が残る。
 2019年により深刻度が増したのは、非感染症疾患(NCD)の問題、耐性菌の問題、また近年より悪化する気候変動や異常気象を起因とする様々な感染症や慢性疾患などである。
 これらの問題を含めるとグローバルヘルス分野での地球規模の課題はむしろ広がっており、大幅に資金や人的リソースが不足している。今後、WHO自身がどの問題により焦点を当てるのか、そのためにどう他の国際機関や民間組織と連携するべきか検討が必要である。そのため、最終的に「一程度前進した」と判断した。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 2019年末から大きな問題となっているのは、中国で発生した新型肺炎である。すでに感染者数は中国本土だけでも6千人近くになり、海外への感染も確認されている。1月23日にWHOは「緊急事態宣言」の発表を見送ったが、同日武漢市の空港・駅が閉鎖され、中国内外へも感染が広がっている。この対応が正しかったかは今後判断が必要となる。
 もう一つ課題は、WHOが中心となってIHR(国際保健規則)の履行を推進する体制が強化できるかである。WHO加盟国にはIHRにおいて緊急事態発生時の対応能力やサーベイランス等について最低限の能力整備が求められているが、この進捗についての外部評価を先の脆弱国家だけではなく、中国やロシアなども受け入れていない。IHRの徹底が求められてはいるが、実際に改善できるかは現時点で判断できず、2020年の評価は、「変わらない」となった。


地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:C(変わらない)

 国連でのサイバーセキュリティと規範に関する合意は2015年に行われ報告書が提出された。しかし、17年に開かれたGGEでは何ら進展がなかったものの、19年12月にGGEが21年の国連総会に報告書を提出することを目指し、議論が開始されたことは評価できる。さらに、国連の全加盟国や民間企業も参加できる国連オープン・エンド作業部会(Open-ended Working Group (OEWG))が行われ20年の国連総会において報告書を提出することになっており、国連を舞台にサイバー空間における規範についての議論が2つの軸で動き始めた。こうした議論が動き始めたことは積極的に評価できるものの、日米欧と中露の間には大きな隔たりがあり、合意に至るかは現段階では展望が見られないため、今回のサイバーガバナンスの管理という点では、変わらないと判断した。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 2020年は、米国の大統領選挙やフランスの上院議員選挙など、多くの選挙が世界中で行われるが、ITやデジタル技術が民主主義を強くするのか、それとも壊してしまうのか、という点がクローズアップされるべき年だと考える。現在では主権国家の対立がサイバー空間にも持ち込まれ、サイバー空間のガバナンス形成を非常に難しいものにしている。
 しかも、こうしたサイバー空間での攻撃対象が、市民生活や各国の民主主義という仕組みにまで広がり、個人情報の保護やデータの管理、権威主義国家がサイバーの技術を使って国民を統制したり、民主主義国家の選挙に干渉にまで及び始めた。民主主義という仕組みがサイバー技術によって危機にさらされる中、民主主義とIT・デジタル技術を考える一つの大きなチャンスを迎えている。
 20年は多くの人たちが、民主主義や社会の問題、個人情報等の問題を本気で考える局面になることを期待している。しかし、そうした動きが、サイバー空間における規範化やルール化まで、一気に大きく展開していくということは考えられないため、20年のサイバーガバナンスの評価としては変わらないと判断する。


地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:D(やや後退した)

 2019年、温暖化に起因する異常気象は、世界各地で人々の生命や暮らしを脅かし続けた。こうした中、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書は、これ以上の温暖化の進行は、食料の安定供給を阻害することなど様々なリスク要因となっていることを指摘している。そして、国連環境計画(UNEP)の報告書では、各国が抱える現目標のままでは2030年には平均気温が3.2度上昇すると警告し、現状の対策では到底対応できないことを警告した。
 しかし、12月のCOP25では、有効な対策を打ち出すには至らなかった。削減目標の引き上げに合意できたのは77カ国にとどまり、各国への義務付けは見送られた。また、議論の焦点だった温室効果ガス削減量の実績を国の間で融通する「市場メカニズム」の実施ルールづくりも、ブラジルやインドが強く反発したことで結局合意できなかった。
 さらに、排出量が圧倒的に多い米中2カ国は、いずれもその膨大な排出量に見合った取り組みをしているとはいえない状況である。こうした状況の中、民間企業を中心とした草の根の取り組みが拡大していることは好材料だが、発展途上国の工業化や人口増加に起因するエネルギー需要増もあり、温室効果ガス排出量は前年比で0.6%増えている。対策が進むよりも早くゴールが遠ざかっているような状況は2019年も続いており、こうしたことから「やや後退した」と評価した。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 2020年にはパリ協定が始動するが、気候変動問題における課題解決に向けた進展は、期待できない状態のまま「変わらない」と評価する。まず、中国・米国・インドといった国々の温室効果ガス削減に対する消極姿勢は2020年も継続するとみられる。また、COP26において削減量の引き上げやルールづくりに合意できるかはまだ不透明である。そして、国際的なリーダーシップを取る国がいなくなったことも期待できない要因となっている。1997年に京都議定書の採択をリードした日本も、G7で唯一石炭火力の新増設計画があるように石炭依存のエネルギー構造を変化させる様子はみられず、リーダーシップ発揮は期待できない状況である。こうしたことから2020年もゴールが遠ざかっていく状況が変わることはないと判断した。


地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:D(やや後退した)

 国際経済システムの管理においていは、グローバリゼーションに伴う格差の拡大が続き、各国が保護主義的な傾向を強める中、世界と国内の政策調整を行いながら持続可能で、均衡ある、かつ、包摂的な成長をどのように続けていけるかがポイントとなる。まず、国内外の経済・所得格差の解決という点で見れば、2019年6月の大阪G20の首脳声明で、GAFAに代表される世界的な巨大IT企業の課税逃れを防ぐため、デジタル課税を国際ルールとして20年末までに合意できるデジタル経済上の課題に対する解決策を作ることで一致したことは一歩前進と言えるが、各国間で意見の相違が見られることから、20年末までに最終合意に至るか現時点で判断できない。次に、貿易におけるルールベースの世界秩序をどのように考えていくべきか、という課題については、G20の首脳声明でWTOの改革を支持する方針は盛り込まれたものの、米中の構造的な対立や米国を始めとする先進国の中でも自国第一主義的な考え方が顕著になってきており、WTOの改革の実現性は見通せない。さらに、経済システムにおいて課題となるのは、通貨問題である。G20を前後して、Facebookのリブラの創設構想が公表された。世界中で利便性が高いという付加価値を武器に、リブラが送金・決済手段として急速に普及することになれば、国際課税を巡る問題やマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の問題が懸念される。将来的に、リブラが送金・決済以外の金融分野に進出することになれば、各国の金融政策や国際的な通貨システムを脅かす可能性も考えられる。G20では主要な中央銀行がマネー・ローンダリングへの対応が不十分との理由などで封じ込めの動きで歩調がそろったことは評価できるが、中国がデジタル人民元の発効を示唆しており、今後、デジタル的な通貨への対応も含めて課題となるが、現時点では後手に回っていると言わざるをえず、全体的に後退と判断した。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 IMFのシナリオでは経済成長は2019年をボトムに2020年は回復してくると予想されている。20年は米国大統領選挙の年であり、トランプ大統領が米中貿易紛争に深入りはしない可能性が高い。そうであるなら、国際経済システムの分野での協力は表面的には一部進展すると考えられる。ただし、米中の構造的な問題に変化はないためWTOやG20などの国際い秩序を維持するための仕組みは形骸化が進むと考えられ、その状況が改善する可能性は、ほとんどみられない。
 また、現状のブレトンウッズ体制を始めとする国際経済システムを維持していくためには、中国を高いレベルのルールベースの国際的な自由秩序にどのようにエンゲージしていくかということが大きな課題となる。しかし、G20ではこうしたテーマで議論ができないため、G7において各国が意思統一する必要があると考えるが、日米と欧の間でも中国に対する見解には開きがあり、どこまで同じ方向で足並みを揃えられるかは現時点では見通せず、20年の展望についても19年と変わらないと判断した。


地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:D(やや後退した)

 開発の目標は「持続可能な開発目標」(SDGs)において具体化されており、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」、「安全な水とトイレを世界中に」等、17の目標が掲げられている。2019年9月の持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(High-level Political Forum(HLPF))の報告によると、2018年の世界の貧困率は8.6%と1990年の36%から大きく減少しており、5歳未満の死者は2000年の980万人から540万人(2017年)に減少するなど目標達成に向けて進捗している。一方で、基本的な飲料サービスを受けられていない人たちは、2015年時点の6億6300万人から7億8500万人増加する等、目標達成度にばらつきがみられ、2030年の目標達成に向けて更なる上積みが必要となっている。
 こうした目標の上積みには巨額の投資が必要になるが、先進国の経済情勢が厳しいためODA等の開発援助額は頭打ちになり、かつ対中国の「一帯一路」に対抗する形で世界の開発援助が地政学的考慮に基づき、支援国に有利になる港湾整備や都市基盤づくりなどが逆にかさ上げされるとの現象が加速し始めている。また、民間の途上国向けの投資もリターンが出る案件に集中し、膨大なインフラ需要の実現の道筋は見えない。SDGsが世界の貧困国のみならず、先進国の自国の貧困や格差などに取り組むきっかけをつくったことは意義があるが、絶対的に貧困者のように世界で本当に困っている人たちに対してリソースの選択と集中ができなくなってきたとの懸念がある。これらの理由から全体としては後退と判断した。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 SDGsの実現には、巨額の資金が必要になってくる。しかし、現在、この資金の出し手に様々な問題が生じ始めている。中国は「一帯一路」戦略のもとで、被援助国の債務持続可能性を超えた多額の借款を発展途上国に貸しつけ、債務減免と引き換えに港湾のような重要インフラの経営権を奪うなどの問題が見られる。一方の先進国においても、自国第一主義が浸透してきており、本当に支援が必要な国や人に対してではなく、援助の出し手が対中国戦略の手段として開発援助を行う傾向も見られている。こうした国家間の地政学的な対立を背景とする援助が目立つようになってきており、貧困削減を
始めとする途上国の喫緊の開発課題の解決に寄与する援助プログラムとなっているのかについて懸念が生じている。
 SDGsが世界の貧困国のみならず、すべての国に対象を広げたことで焦点が曖昧になったという問題もある。またインフラ需要推計における「必要なインフラ」という定義も曖昧なため、今後、途上国が発展し、SDGsの目標を実現していたくためには、あらためて途上国の「必要なインフラ」の定義を明らかにし、選択と集中を再考していくことが必要だと考えるが、こうした動きは現時点でみられない。限りある資金やリソースの中では、そうした不断の見直しに着手しなければ、そもそもSDGsが掲げる「誰も取り残さない(Leave No One Behind)」という究極目標の達成は現時点では難しく、2020年もこの状況変わらないと判断した。


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